9月15日から17日まで北海道大学高等教育センターで開催されていた第59回高分子討論会に参加してきました。高分子討論会は高分子学会が主催する高分子学会年次大会、高分子夏期大学およびポリマー材料フォーラムとともに4大行事の一つで、発表件数はポスターと口頭発表を合わせて1900件以上にのぼります。発表内容は合成高分子からDNA、タンパク質および糖鎖などの生体高分子、高分子膜や電子材料など非常に多岐に渡ります。討論会という名だけあって、口頭発表では発表時間15分に対して、質疑応答の時間が10分取られており、ある意味、座長泣かせの学会発表かもしれません。その中で今回、ソーラーセイルIKAROSの帆の部分にあたる膜の開発に携わった方の発表を聴くことができたのでご紹介したいと思います。
IKAROSについてはコチラやコチラをご参照下さい。
宇宙空間で使用するには、放射線や紫外線が大量に降り注ぎ、温度差の激しい過酷な環境に耐えられる材料であることが求められます。これまでにも、耐放射線性に優れた材料はいくつか報告されておりますが、それらの材料は欠点がありました。それは難成形性であるということです。いくら優れた材料であろうと製膜することが出来なければ使えません。またIKAROSの膜はいくつかの小さな膜が繋ぎ合わせられて大きな膜となっていますが、IKAROSというプロジェクトの特性上、膜同士を熱融着できるかも重要であったようです。融着できなければ膜を接着剤で繋ぎ合わせることになりますが、そうしますと重量が増してしまいます。光圧で動くソーラーセイルにとっては重量が増すことは避けなければなりません。さらにIKAROSに使う膜は膜面が20mにもなるために工業的に製造することが必要であり、開発期間が短く、製膜方法を一から立ち上げる時間的な余裕がなかったために既存の方法・機械で成形加工できる必要があったそうです。そういった問題をクリアしつつ、地上での実証実験により宇宙空間でも耐えうることが示され、ようやく宇宙空間での”帆走”に至ったということでした。
宇宙空間で使える材料の開発といったときに、大学の研究では耐放射線性に優れた材料を作って終わりということが多いかと思われますが、実際に使える材料を作るというのは越えなくてはいけないハードルが数多くあり、想像以上に大変なことであると感じました。
高分子討論会では企業の方の発表もあり、こういった実際の製造現場に携わる方の話を聞くチャンスであると思います。来年は岡山で開催されるようなので、参加されてみてはいかがでしょうか。