たまにはリアル「つぶやき」らしい投稿を。
筆者は現在、アメリカでポスドクをしています。
アメリカにおける博士研究員とは独立前の準備段階、つまり所属ラボで研究成果を増やす一方で、今後、自分が突き進む道(分野・研究対象)を決め、それを基にプロポーザルを書き上げては、テニュアトラックや相当額のグラント獲得に挑戦する期間でもあります。
そんな環境に感化されて、筆者もプロポーザルを何度も書いてきました。
日本でもアメリカでも注目される点は一緒で、
テーマの重要性(背景)、方法論の確かさ、オリジナリティ、成果の応用性
などが審査の際に注目されるポイントです。
書く技術・内容の売り方などは回数を重ねるごとに上達していくのですが、一方で、もっと根本的な部分で、誰に聞いてもぱっとした答えが返ってこない疑問が生まれていました。
独創性ってなんだろう?と。(はい、初歩的かつ致命的なとこで筆者は頻繁につまづきます。。。)
それがずーっと、こうモヤモヤしていたんですね。
いや、表面上は書けるんですよ、この視点や手法やアプローチの組み立て方はオリジナルである!とか、このテーマへこの戦略で取り組むのは独創的かつ効果的なんです!って。(なのでそのプロポーザルが、通った通らなかったは別の話なのですが)
実際に書いたことがある人は解るかもしれませんが、プロポーザルを書く際の独創性って、上述のように、先人達が創り上げた暗黙の「スタイル」のようなものがあると思うのです。(勿論、いろんな書き方をされてる人が居ると思いますが)
でもそれはプロポーザル用・グラント獲得用の独創性であり、化学そのものの独創性とはちょっと違うのかなっと違和感を感じてしまうような屈折した奴なわけですよ、筆者は。。
で、ですね、どんな書き方をしても、
「今後やりたい化学を詰め込んだストーリー」を掘り下げて細かく見てみると、
現存する確立された化学の組み合わせや代替手法にしか見えてこないわけですorz。。
(勿論、達成目的は未知化合物や機能性なのですが)
申し訳ないことに、自分以外の人のプロポーザルを見ても、そう感じていました。。
そもそも研究テーマを選択する時に、完全オリジナルなものなんてあるのだろうか???と。
(*歴史的天才達の生み出してきたテーマは別です)
で、一週間ほど前でしょうか、ついに手が止まってしまったんです。
数週間後には提出しなくてはいけないものが3つもあったのに(涙目)。
そして筆者はボスの部屋を訪ねるわけです。
筆者「オリジナリティってのがよく解りません」
ボス「エッ?」
筆者「えっ?!」
・・・・
ボス「ア、アァ。プロポーザルノコトネ」
筆者「はい、どう書いても、やりたいことを詰め込んだ形にしかならなくて・・・」
ボス「ソレガ、オリジナルデショウ?」
筆者「えっ?」
ボス「エッ?!」
・・・・・。
何度も筆者がグラント書類を書いてきた様子を見ているので、ボスも驚いていたようです。
で・・・翌朝、タイトルも本文も無いメールがボスから届いていました。
そこには1つのpdfファイルが添付されていました。
それは、「どのように研究テーマを選ぶか」について書かれた論文だったのです。
C. Ronald Kahn, The New England Journal of Medicine, 330, 1530. (1994) DOI: 10.1056/NEJM199405263302113
独創性とはこーゆーことだ!って答えが書いてあるわけじゃないし(撃沈)、内容の全てを理解・実行できているわけでもありません。(おそらく独立して研究室を運営して数年後くらいに気付けるかもしれません)
でもですね、研究人生を決める時期にある悩める若手研究者に対して、「めっさ頑張れ!!」っていう熱いものはしっかり感じ取ることが出来る論文です。(てか、このような論文が投稿・受理されるんですね)
さて、前置きが長くなりましたが、実はこの論文、David Coreyが独立キャリアを開始した際に、ノーベル賞受賞者である父、E.J.Coreyから受け取ったものなのです。それを彼の友人で、現在NIH/NIGMSのdirectorを勤めるJohn M. Schwabが受け取り、筆者のボスを含むNIH関係者へと流れ、たまたまプロポーザルで悩んでいることを知った筆者の手元にボスが送ってくれた、と言うわけです。
うむ、筆者も将来、自分の学生に送ってやろう、と思ったのでした。
・・・・・いや、きっと「今」必要な人がケムステ読者の中に居るかもしれない。人によっては全く役に立たない内容かもしれないけど、もしかしたら筆者のように初歩的なところで手が止まっている人がいるかもしれない。
そう思った時には既にこの記事を書き始めていました。
息子に送った添付論文が、時間も距離も越えて、こうやって今見ている皆さんの元へと届くとは、Coreyも予想していなかったことでしょう。
まさに「Webと化学の時代」ですねぇ(と何気にアピール)。
と言うわけで、この論文、ちょっとでも誰かの役に立てば幸いです。