Organic structure determination using atomic resolution scanning probe microscopy
Gross, L.; Mohn, F; Moll, N.; Meyer, G.; Ebel, R.; Abdel-Mageed, W. M.; Jaspars, M. Nature Chem. 2010, AOP DOI: 10.1038/NCHEM.765
分子はとても小さいため、普通の顕微鏡で形を見ることは出来ません。
しかし2009年にIBMのグループから、改良型原子間力顕微鏡(AFM)を使えば有機分子・ペンタセンの構造を化学結合にいたるまで鮮明に観測できる、という報告がなされました。「顕微鏡で有機分子の形を見る」こと自体を夢物語でなくしてしまった、大きなブレイクスルーです。
このIBMグループ、その後この技術を用いた応用展開にも挑んでいます。先日その成果が報告されました。
今度は「顕微鏡で構造未知の試料を観測し、構造決定を行う」という、これまた夢のある課題へのチャレンジです。
今回のデモに用いられたのは、Cephalandole Aという天然物。これ実は、当初ミスアサイン構造で報告され、後に全合成によって訂正されたという経歴をもつ、”フダ付き”の化合物です。
実際、各種分析である程度アテは付けども、候補1~4からどうしても絞り切れない・・・という、なんとも煮え切らない物質のようです。
こういったメンドクサイのでも、彼らの高分解能顕微鏡を使えば一発OK!ということですね。
さて彼らは前回のケースと同様、CO探針を備えた非接触型原子間力顕微鏡(NC-AFM)を用いています。
Cephalandole A 分子を観測してみたところ、インドール部位の結合様式がすぐ分かり、候補3と4は即座に却下されました。
で、1と2、いったいどちら?・・・ということの決定ですが、これはやや困難を極めたようです。というのも、肝心な部分だけ良い分解能で像が撮れなかったのです。
Cephalandole Aは、以前使われたペンタセンと異なり、インドール連結部位でねじれた非平面構造をとっており、また探針との作用様式が炭素・水素と異なるヘテロ原子(酸素、窒素)を含む、というのが理由のようです。
最終的にはDFT計算で導き出したパターンと、実測像を比較することで、1だと結論づけています。
・・・こんなカンジなので、何でもかんでもに適用するのはまだまだ難しそうですね。
とはいえ、とても夢を感じさせてくれる研究の一つだと思えます。誰が見てもその威力が分かる、という観点でも素晴らしい。
技術が進展すれば革命的な分析技術になりそう! という期待を抱かせるに十分な成果だと思います。
(※測定画像は論文より転載)
関連リンク
- Snapshots of mystery molecular structures (Chemistry World Blog)
- Determining the structure by looking at the molecule