Cu2O: A Versatile Reagent for Base-Free Direct Synthesis of NHC-Copper Complexes and Decoration of 3D-MOF with Coordinatively Unsaturated NHC-Copper Species
Chun, J.; Lee, H. S.; Jung, I. G.; Lee, S. W.; Kim, H. J.; Son, S. U.
Organometallics, 2010, 29, 1518-1521. doi:10.1021/om900768w
少々マニアックな内容かもしれませんが、NHC銅錯体の塩基を使わない直接的合成が少し前に報告されていました。
内容もさることながら、思わず「ああなるほど」と感じた論文でしたので紹介させていただきます。
種々のNHC錯体を合成するときには、主に2つの方法が知られています。すなわち、塩基によりカルベンを発生させてから錯化させる方法と、銀錯体を経由するカルベントランスファーです。最もよく使われる塩基法に対し、それがうまくいかない時の代替として後者の合成法もたまに見かけますが、NHC錯体の合成法といえばほとんどこの2つであるように思います。
今回著者らはNHC銅錯体を含むMOFの合成を目指していましたが、そのためにはこれらの従来法が適していなかったため、新たな合成法を探索しました。そして種々の銅試薬を検討した結果、酸化銅(I)が効果的であることを見出しました。
しかもその実験手順は至って単純で、イミダゾリウム塩と酸化銅をジオキサン中100℃で加熱撹拌するだけ! 後処理も簡単で、ろ過して未反応の酸化銅を除き、溶媒を留去したあと水で洗浄し塩を除けば十分だとのこと。実は筆者も試してみたのですが、真っ白な固体を得ることに成功しました。
塩基法による合成は文献通りにやってもうまくいかないことが多く、カラムをしたり再結晶をしたりと精製に手間取らされた記憶があります。それと比べるとずいぶん簡便な手法であり、実際著者らも「NHC塩化銅錯体の工業的な生産へも適応できるだろう」と述べています。
ところでこの方法、よく見ればカルベントランスファーを利用する手法とほとんど同じであることが分かります。酸化銀の代わりに酸化銅を用いただけ。銀と銅は同族元素ですから、ああなるほど、そりゃそうか、といったところです。
しかし実際にはこんな簡単な方法が今まで報告されていなかったわけで、必要は発明の母とはこのことですね。そして、まだまだ機構がわからないことも多い有機金属化学、やっぱり頼りになるのは周期表なんだなぁと改めて感じた次第です。