[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

銅触媒によるアニリン類からの直接的芳香族アゾ化合物生成反応

[スポンサーリンク]

 

Copper-Catalyzed Aerobic Oxidative Dehydrogenative
Coupling of Anilines Leading to Aromatic Azo Compounds using Dioxygen as
an Oxidant
Zhang, C.; Jiao, N. Angew. Chem . Int.
Ed.
2010, ASAP. doi:10.1002/anie.201001651


アゾ化合物と聞くと有機合成の人ならAIBN、高分子の人ならさらにVazoシリーズのようなラジカル開始剤をまず思い浮かべるのではないかと思います。これに芳香族が加わると、様々な色素のイメージでしょうか。こうした多くのアゾ化合物は通常、出発原料であるアニリン類をジアゾニウム塩に変換したり、あるいはニトロソ化合物との脱水縮合を経て合成されます。

これを遷移金属による触媒反応で切り開いたのはスペインのGarciaらによる2008年のScience誌での報告で、酸化チタンや酸化セリウムなどのナノ粒子に担持した金を酸素加圧条件下(3?5bar)で用いることによって目的化合物を良好な収率で得ています。[1](主題と逸れますが、この報告の中で紹介されている系中の気体を入れ替えるだけで水素化とカップリングを完全ワンポットで行うプロセスはエレガントだと思います。)

今回取り上げているJiaoらの報告ではさらに安価な銅(Ⅱ)を用い、酸化剤として用いる酸素は常圧、あるいは空気中の酸素でも反応が進行するというものです。電子poorな基質でもホモカップリングでは良好な収率で生成物を与えますが、クロスカップリングには些か難アリのようです(反応が遅い電子poorな基質を過剰量用いることで、電子richな基質のホモカップリングを抑えている)。銅を用いると、ハロゲン基をもつ基質の場合にはUllmannカップリング型の副生成物も現れそうですが、反応条件が温和であるため(60℃)通常は高温加熱が必要なUllmannカップリングは起こらないようです。(この事から、温度コントロールによる二段階の触媒反応をワンポットで…という系の開発を妄想しました。そのうち機会があれば、どなたか…。)

芳香族アゾ化合物は先述のようにそれ自体がさまざまな機能を持っていますが、例えばベンジジン転位(Benzidine Rearrangement)を用いると4,4′-二置換されたビフェニルが簡単に得られます。

数々の人名カップリング反応やC-H同士のカップリングなど、ビフェニルもしくはビナフチル骨格等の形成手段は色々有りますが、奥の手として「こんなこともあろうかと!」用いたBenzidine Rearrangementは個人的に思い入れのある反応であったりします。有名どころの教科書だと(筆者の知る限り)マーチにしか記述の無い反応ですが、実は発見されたのは150年ほど前という由緒正しき反応(?)で、A. W. Hofmannによる仕事です。Hofmannと言えば(化学者なら)身の回りに溢れたHofmann◯◯という名詞の数々はもはや挨拶のようなものですし!、日本の現代薬学を拓いた長井長義先生も師事された偉人であります(長井先生の奥様がドイツ人であったのはHofmann教授の差し金であるとか)。些か無理やりな連想かもしれませんが、反応一つで歴史を身近に感じられるのは化学者の特権ですね。皆様、今日も楽しく実験and/orデスクワークを。

  • 関連文献
[1]Grirrane, A.; Corma, A.; Garcia, H. Nature, 2008, 322, 1661. DOI:10.1126/science.1166401

[2]Hoffmann, A. W. Proc. Royal Soc. London. 1862-1863, 12, 576.Proc. Royal Soc. London. 1862-1863, 12, 576.

Avatar photo

せきとも

投稿者の記事一覧

他人のお金で海外旅行もとい留学を重ね、現在カナダの某五大湖畔で院生。かつては専ら有機化学がテーマであったが、現在は有機無機ハイブリッドのシリカ材料を扱いつつ、高分子化学に

関連記事

  1. Carl Boschの人生 その2
  2. 狙いを定めて、炭素-フッ素結合の変換!~光触媒とスズの協働作用~…
  3. 光レドックス触媒と有機分子触媒の協同作用
  4. ChatGPTが作った記事を添削してみた
  5. 1つの蛍光分子から4色の発光マイクロ球体をつくる
  6. オペレーションはイノベーションの夢を見るか? その2
  7. 触媒量の金属錯体でリビング開環メタセシス重合を操る
  8. 蛍光標識で定性的・定量的な解析を可能に:Dansyl-GSH

注目情報

ピックアップ記事

  1. 4種のエステルが密集したテルペノイド:ユーフォルビアロイドAの世界初の全合成
  2. ラロック インドール合成 Larock Indole Synthesis
  3. 分子1つがレバースイッチとして働いた!
  4. 企業研究者のためのMI入門③:避けて通れぬ大学数学!MIの道具として数学を使いこなすための参考書をご紹介 mi3
  5. 化学系ブログのインパクトファクター
  6. 鴻が見る風景 ~山本尚教授の巻頭言より~
  7. 「高分子材料を進化させる表面・界面制御の基礎」
  8. 硫黄-フッ素交換反応 Sulfur(VI)-Fluoride Exchange (SuFEx)
  9. B≡B Triple Bond
  10. 小6、危険物取扱者乙種全類に合格 「中学で理科実験楽しみ」

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2010年7月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031  

注目情報

最新記事

ヘム鉄を配位するシステイン残基を持たないシトクロムP450!?中には21番目のアミノ酸として知られるセレノシステインへと変異されているP450も発見!

こんにちは,熊葛です.今回は,一般的なP450で保存されているヘム鉄を配位するシステイン残基に,異な…

有機化学とタンパク質工学の知恵を駆使して、カリウムイオンが細胞内で赤く煌めくようにする

第 641 回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院理学系研究科化学専攻 生…

CO2 の排出はどのように削減できるか?【その1: CO2 の排出源について】

大気中の二酸化炭素を減らす取り組みとして、二酸化炭素回収·貯留 (CCS; Carbon dioxi…

モータータンパク質に匹敵する性能の人工分子モーターをつくる

第640回のスポットライトリサーチは、分子科学研究所・総合研究大学院大学(飯野グループ)原島崇徳さん…

マーフィー試薬 Marfey reagent

概要Marfey試薬(1-フルオロ-2,4-ジニトロフェニル-5-L-アラニンアミド、略称:FD…

UC Berkeley と Baker Hughes が提携して脱炭素材料研究所を設立

ポイント 今回新たに設立される研究所 Baker Hughes Institute for…

メトキシ基で転位をコントロール!Niduterpenoid Bの全合成

ナザロフ環化に続く二度の環拡大というカスケード反応により、多環式複雑天然物niduterpenoid…

金属酸化物ナノ粒子触媒の「水の酸化反応に対する駆動力」の実験的観測

第639回のスポットライトリサーチは、東京科学大学理学院化学系(前田研究室)の岡崎 めぐみ 助教にお…

【無料ウェビナー】粒子分散の最前線~評価法から処理技術まで徹底解説~(三洋貿易株式会社)

1.ウェビナー概要2025年2月26日から28日までの3日間にわたり開催される三…

第18回日本化学連合シンポジウム「社会実装を実現する化学人材創出における新たな視点」

日本化学連合ではシンポジウムを毎年2回開催しています。そのうち2025年3月4日開催のシンポジウムで…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー