[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

(+)-sieboldineの全合成

[スポンサーリンク]

 

 JACS誌に登場してからやや時間が経ってしまいましたが、Overmanらによる(+)-sieboldine Aの全合成を紹介したいと思います。

Total Synthesis of (+)-Sieboldine A
S. M. Canham, D. J. France, L. E. Overman, J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 7876-7877, DOI: 10.1021/ja103666n


さて、この天然物は赤で示したようにbicyclo[5.2.1]decane-N,O-acetalという奇妙な構造を含んでいます。この部分は、連続する不斉四級炭素、スピロ環、さらにN,O-アセタールと非常にやっかいそうな骨格、官能基を有しており、筆者には逆合成解析をまずどこで切ったらいいのかさっぱり分かりません!

Overmanはaza-Cope-Mannichに代表されるように、反応前と反応後で構造がガラッと変わるカスケード反応を天然物にうまく組み込み、ストリキニーネやActinophyllic Acidなどの複雑な天然物をあっさりと作ってしまう”芸術的”な合成をこれまで数多く報告してきました。(気ままに有機化学さんのブログでも紹介されています) そして今回もOvermanらはこの複雑かつ繊細な化合物を、2回のカスケード反応を使って美しく組み上げています。

それでは逆合成を見てみましょう。

retrosynthesis1.gif
一見、前後で何が起こっているか分かりづらいのでカスケード反応を含んだ43について詳しく見ていくこととします。

43 : pinacol-terminated cyclization

4to3.gif Rhee、Kirschらによって報告されたpinacol-terminated cyclizationを本合成で用いています。OL. 2008, 10, 2605-2607, (DOI: 10.1021/ol8008733)
金触媒はアルキンを活性化することで知られています。このように活性化されたアルキンは様々な求核種を導入することができ、その例として酸素官能基窒素官能基などがありますが、アルケンとも反応が進行するようです。今回は6員環をとる位置にアルケンが存在するためこの位置で環化反応が進行して、生じたカチオンにピナコール転位反応が連続して起こります。
以前にOvermanら自身によって、Prins-pinacol連続反応が報告されており、これはその応用法とみて良いでしょう。レビューなんかも出てますのでそちらを参考に。JOC. 2003, 68, 7143-7157, (DOI: 10.1021/jo034982c).

 

sieboldine-2.gif
この後、ルイス酸を用いた2回目のカスケード反応によりスピロ環を構築しました。続いて、1級水酸基をアミンへと変換し、グリコシル化反応を用いてN,O-アセタールの中員環を構築しています。このようにして(+)-sieboldine Aは20工程を経て合成されました。

紙の上で書いてみたらまぁなんとなく分かるような気はしますが、実際、合成にこのような経路を込みこもうと思いつくところが凄いですね。(もっともこの反応経路は筆者が考えたものなので間違いがあったらこっそりと指摘してください)

関連書籍

[amazonjs asin=”4759812776″ locale=”JP” title=”天然物の全合成―2000‐2008(日本)”]
Avatar photo

87suke

投稿者の記事一覧

博士課程の学生。ひっそりと天然物合成をやってます。Chem-Stationを通じて皆さんと化学の面白さを共有し

関連記事

  1. お望みの立体構造のジアミン、作ります。
  2. TMSClを使ってチタンを再生!チタン触媒を用いたケトン合成
  3. その構造、使って大丈夫ですか? 〜創薬におけるアブナいヤツら〜
  4. 化学系スタートアップ2社の代表が語る、事業の未来〜業界の可能性と…
  5. 第20回次世代を担う有機化学シンポジウム
  6. 日本化学会がプロモーションムービーをつくった:ATP交流会で初公…
  7. ポンコツ博士の海外奮闘録⑤ 〜博士,アメ飯を食す。バーガー編〜
  8. わずか6工程でストリキニーネを全合成!!

注目情報

ピックアップ記事

  1. 2015年化学生物総合管理学会春季討論集会
  2. ミノキシジル /Minoxidil
  3. 一流科学者たちの経済的出自とその考察
  4. このホウ素、まるで窒素ー酸を塩基に変えるー
  5. 若手化学者に朗報!YMC研究奨励金に応募しよう!
  6. 2008年ノーベル化学賞『緑色蛍光タンパクの発見と応用』
  7. 第137回―「リンや硫黄を含む化合物の不斉合成法を開発する」Stuart Warren教授
  8. ターボグリニャール試薬 Turbo Grignard Reagent
  9. スローン賞って知っていますか?
  10. 危険物データベース:第6類(酸化性液体)

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2010年7月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031  

注目情報

最新記事

アキラル色素分子にキラル光学特性を付与するミセルを開発

第644回のスポットライトリサーチは、東京科学大学 総合研究院 応用化学系 化学生命科学研究所 吉沢…

有機合成化学協会誌2025年2月号:C–H結合変換反応・脱炭酸・ベンゾジアゼピン系医薬品・ベンザイン・超分子ポリマー

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年2月号がオンライン公開されています。…

草津温泉の強酸性硫黄泉で痺れてきました【化学者が行く温泉巡りの旅】

臭い温泉に入りたい!  というわけで、硫黄系の温泉であり、日本でも最大の自然温泉湧出量を誇る草津温泉…

ディストニックラジカルによる多様なアンモニウム塩の合成法

第643回のスポットライトリサーチは、関西学院大学理工学研究科 村上研究室の木之下 拓海(きのした …

MEDCHEM NEWS 34-1 号「創薬を支える計測・検出技術の最前線」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

医薬品設計における三次元性指標(Fsp³)の再評価

近年、医薬品開発において候補分子の三次元構造が注目されてきました。特に、2009年に発表された論文「…

AI分子生成の導入と基本手法の紹介

本記事では、AIや情報技術を用いた分子生成技術の有機分子設計における有用性や代表的手法について解説し…

第53回ケムステVシンポ「化学×イノベーション -女性研究者が拓く未来-」を開催します!

第53回ケムステVシンポの会告です!今回のVシンポは、若手女性研究者のコミュニティと起業支援…

Nature誌が発表!!2025年注目の7つの技術!!

こんにちは,熊葛です.毎年この時期にはNature誌で,その年注目の7つの技術について取り上げられま…

塩野義製薬:COVID-19治療薬”Ensitrelvir”の超特急製造開発秘話

新型コロナウイルス感染症は2023年5月に5類移行となり、昨年はこれまでの生活が…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー