2月にこのブログでもお知らせしました(若手研究者に朗報!? Reaxys Prizeに応募しよう)の選考結果が6月1日に発表されたようです。今回から始まったReaxys Prize(正確にいうとReaxys Ph.D. Prizeです)は若手の中でも博士課程の学生および博士を1年以内に取得したもののみが応募することができる賞であり、およそ300人以上の応募があったようです。その結果、2010年のReaxys Prizeの受賞者は以下の3名となりました。
Thomas Maimone (Massachusetts Institute of Technology, USA)
Hiroyuki Miyamura (University of Tokyo, Japan)
Robert Phipps (University of Cambridge, UK)
それ以外にもファイナリストに残った30名はいずれも各研究室での主研究の中心となり新しい化学を生み出した若き化学者達です。それでは簡単に紹介したいと思います。
Thomas Maimone, Ph.D.
スクリプス研究所化学科Phil Baran教授のもとで、保護器を使わない全合成、そしてビニグロールの全合成を達成し、短縮で博士を取得して、現在MITのBuchwald研究室で博士研究員をしています。このトム君は個人的によくしっており、著者が見た中でも5本の指に入る、とてつもなくできる男です。おそらく1,2年後には独立し自分の研究室をアメリカ国内で持つと断言出来ます。
宮村浩之博士
東京大学小林修教授の元でポリマー担持された金やプラチナ触媒(ナノパーティクル)を使って様々な興味深い有機反応を開発しています。日本人なのに大変申し訳ございませんが存じ上げませんでした。現在小林研究室で特任助教されております。
Robert Phipps, Ph.D.
ケンブリッジ大学のMatthew Gaunt教授のもとで、銅触媒を用いたメタ選択的な炭素ー水素結合アリール化を行いました。Gaunt教授は将来イギリス化学界で有機化学を牽引していくと考えられており、その中でひとつの代表作を仕上げた彼の受賞は納得できるものがあります。
その他にもファイナリスト(以下参照)もかなりの強者ぞろいです。
Victoria Blair (University of Strathclyde)
Justin Chalker (University of Oxford)
Justin Christy (Stanford University)
Nicholas Deprez (University of Michigan)
Guangbin Dong (Stanford University)
Alessandro D’Urso (University of Catania)
Brett Fors (Massachusetts Institute of Technology)
Xiao Fu (National University of Singapore)
Takeru Furuya (Harvard University)
Stefan Graber (University of Basel)
Yuan Han (National University of Singapore)
Takanori Iwasaki (Osaka University)
Bala Krishna Juluri (Pennsylvania State University)
Michael Katz (Simon Fraser University)
Florian Kessler (University Konstanz)
Ponminor Senthil Kumar (Indian Institute of Technology)
Ravi Kumar (Indian Association for the Cultivation of Science)
Jin LiQun (Wuhan University)
Connor Martin (University of California, Irvine)
Teresa Martinez Del Campo (Universidad Complutense de Madrid)
Megan Matthews (Pennsylvania State University)
Paul McGonigal (University of Edinburgh)
David Michaelis (University of Wisconsin-Madison)
Evan Miller (University of California, San Diego)
Thomas Moss (University of Manchester)
Devon Mundal (Northwestern University)
Julia Neumann (Westfalische Wilhelms-Universitat Munster)
Tobias Seiser (ETH Zurich)
Rohit Kumar Sharma (National Institute of Pharmaceutical Education & Research)
Lauren Sirois (Stanford University)
Christof Sparr (ETH, Zurich)
Jason Spruell (Northwestern University)
Yuto Sumida (Kyoto University)
Kosuke Suzuki (University of Tokyo)
Giulia Tagliabue (University of Insubria)
Jason Thomas (University of British Columbia)
Hirofumi Ueda (Tohoku University)
Akira Ueda (Osaka University)
Oleg Vechorkin (Ecole Polytechnique Federale de Lausanne)
Dieter Weber (University of North Carolina at Chapel Hill)
Peter Wich (University of California, Berkeley)
Akira Yada (Kyoto University)
調べてみると例えば、Justin Christy氏はWender研究室で遷移金属触媒を用いた環化付加反応の開発でAngewante, J. Am. Chem. Socに3報程報告しています。Nicholas Deprez氏はミシガン大学のSanford研究室でPd(iV)中間体を経由したC-H官能基化反応の研究、Guangbin Dong氏はTrost研究室でAgerastatinやBryostatin 16などの複雑天然物を全合成した強者です。Brett Fors氏に至ってはなんと配位子の名前(BrettPhos)にすらなっています。
さらに見ていくと、日本人も意外にたくさんいることがわかります。Takeru Furuya氏はハーバード大学のRitter研究室で活躍している日本人、Takanori Iwasaki氏は大阪大学の真島研で大嶋孝志先生(現在九大教授)のもとで亜亜鉛四核クラスター触媒を用いたエステル交換反応を発見しています。また、Hirofumi Ueda氏は東北大徳山先生のもとでHaplophytineの全合成を達成しています。
と調べていくときりがないのでこのへんでやめておきますが、いずれも、最近のトピックとなった研究を実際に実現させた若き化学者であり、今後非常に期待できる人材であることは間違いないでしょう。
これらの仕事はもちろんボスの力があってからこそ生み出されたものもあり、実際の実力は独立、もしくはアカデミックポストを得られてから発揮されることと思います。しかしながら現在の有名な科学者は若い頃からすごかった。と語られるのはいつの世にも、常にいえることであり、ここから未来の化学を牽引していく化学者が生まれるかもしれません。
この賞はそんな化学者達を見いだせる絶好の場であると思いますのでReaxys Prize、今後も続けていってくれればと思います。