[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

(+)-フロンドシンBの超短工程合成

[スポンサーリンク]

“The organocatalytic three-step total synthesis of (+)-frondosin B”
Reiter, M.; Torssell, S.; Lee, S.; MacMillan D. W. C. Chem. Sci. 2010, 1, 37. DOI: 10.1039/c0sc00204f

先に述べましたが、英国王立科学会出版部(RSC Publishing Group)から新たな化学ジャーナルChemical Scienceが創刊されました。
このジャーナルはDavid MacMillanがEditor-in-Chiefになっているのですが、彼のグループからの論文もやはりWeb掲載されていました。

これは実際優れた仕事だと思いますので、紹介してみましょう。


フロンドシンB自体は過去にいくつかのグループから不斉全合成が報告されていますが、どれも10工程以上を必要とし、総収率も最高で13%に過ぎません。

これに対してMacMillanは、なんと合成経路をわずか3工程にまで短縮し、総収率50%に向上させるという驚くべき飛躍を成し遂げました。

短工程化の鍵となっているのは以前に「つぶやき」でも紹介しました、トリフルオロボレート塩の不斉共役付加反応です。この反応を用いて、他のグループが制御に苦しむ不斉点構築をさらりと成し遂げ、まずは第一世代ルート(5段階)を確立しています。ここでのモリブデン(II)触媒による置換反応は、ルイス酸様式で進む[1]とのこと。

MacMIllan_frondosinB_2これだけでも十二分に凄いと思うのですが、彼らはこの過程で得られた知見をもとにさらにルートを詰めており、以下のような第二世代ルート(3段階)へと改善させています。ポイントたる改善は直接ボロン酸を使えるようにした点と、酸性条件下で環化が起こる基質の特徴を捉え、環化+脱保護を一挙に行っている点です。

MacMIllan_frondosinB_3過去に多段階を要していた合成が、新たなブレイクスルー技術の出現によって劇的に改善される好例かと思われますが、いやはやここまで出来てしまうというのはまったく凄いというほかありません。

合成を刷新してしまうような革新的業績を打ち出し続けるMacMillanですが、これに太刀打ちできる人材は果たして現れるのでしょうか・・・?うーむ。

 

関連文献

[1] Kocovsky, P. et al. J. Org. Chem. 1999, 64, 2737. DOI: 10.1021/jo9821776

 

関連リンク

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. フラーレン:発見から30年
  2. 有機合成化学協会誌2017年11月号:オープンアクセス・英文号!…
  3. 私が思う化学史上最大の成果-1
  4. ホウ素は求電子剤?求核剤?
  5. ケムステイブニングミキサー2018へ参加しよう!
  6. リサーチ・アドミニストレーター (URA) という職業を知ってい…
  7. ポンコツ博士の海外奮闘録② 〜博士,鉄パイプを切断す〜
  8. スケールアップのためのインフォマティクス活用 -ラボスケールから…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 立体選択的なスピロ環の合成
  2. 水素化反応を効率化する物質を自動化フロー反応装置で一気に探索
  3. 構造化学の研究を先導する100万件のビッグデータ
  4. 有機分子・バイオエレクトロニクス分科会(M&BE) 新分野開拓研究会2023 「電子とイオンの織りなすサイエンス: 材料・デバイス・センシング」
  5. アイルランドに行ってきた②
  6. 【速報】新元素4つの名称が発表:日本発113番元素は「ニホニウム」!
  7. ナノグラムの油状試料もなんのその!結晶に封じて分子構造を一発解析!
  8. シリルエノールエーテルのβ位を選択的に官能基化する
  9. 低分子の3次元構造が簡単にわかる!MicroEDによる結晶構造解析
  10. 治療応用を目指した生体適合型金属触媒:② 細胞外基質・金属錯体を標的とする戦略

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2010年6月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930  

注目情報

最新記事

MEDCHEM NEWS 34-1 号「創薬を支える計測・検出技術の最前線」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

医薬品設計における三次元性指標(Fsp³)の再評価

近年、医薬品開発において候補分子の三次元構造が注目されてきました。特に、2009年に発表された論文「…

AI分子生成の導入と基本手法の紹介

本記事では、AIや情報技術を用いた分子生成技術の有機分子設計における有用性や代表的手法について解説し…

第53回ケムステVシンポ「化学×イノベーション -女性研究者が拓く未来-」を開催します!

第53回ケムステVシンポの会告です!今回のVシンポは、若手女性研究者のコミュニティと起業支援…

Nature誌が発表!!2025年注目の7つの技術!!

こんにちは,熊葛です.毎年この時期にはNature誌で,その年注目の7つの技術について取り上げられま…

塩野義製薬:COVID-19治療薬”Ensitrelvir”の超特急製造開発秘話

新型コロナウイルス感染症は2023年5月に5類移行となり、昨年はこれまでの生活が…

コバルト触媒による多様な低分子骨格の構築を実現 –医薬品合成などへの応用に期待–

第 642回のスポットライトリサーチは、武蔵野大学薬学部薬化学研究室・講師の 重…

ヘム鉄を配位するシステイン残基を持たないシトクロムP450!?中には21番目のアミノ酸として知られるセレノシステインへと変異されているP450も発見!

こんにちは,熊葛です.今回は,一般的なP450で保存されているヘム鉄を配位するシステイン残基に,異な…

有機化学とタンパク質工学の知恵を駆使して、カリウムイオンが細胞内で赤く煌めくようにする

第 641 回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院理学系研究科化学専攻 生…

CO2 の排出はどのように削減できるか?【その1: CO2 の排出源について】

大気中の二酸化炭素を減らす取り組みとして、二酸化炭素回収·貯留 (CCS; Carbon dioxi…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー