Synthesis of (+)-Complanadine A, an Inducer of Neurotrophic Factor Excretion
Yuan, C.; Chang, C-T.; Axelrod, A.; Siegel, D. J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 5924-5925.
DOI: 10.1021/ja101956x
Total Synthesis of (+)-Complanadine A Using an Iridium-Catalyzed Pyridine C-H Functionalization
Fischer, D.F.; Sarpong, R. J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 5926-5927.
DOI: 10.1021/ja101893b
最近、化学とWeb関係ばかり書いていたのでたまにはガチ化学の内容を。最近アルカロイドComplanadine Aの全合成が同時に報告されました。二人は米国の若手合成化学者で奇しくも同じ化合物をほぼ同じ時期に合成ターゲットとしていたわけです。しかしながらその合成戦略は全く異なるものでした。その合成比較とSarpongとSiegel、二人の若手化学者について紹介したいと思います。
SarpongとSiegel
今回の2人は実はなにかと学生、博士研究員のころから注目されていました。Sarpongはアフリカ出身で大学からアメリカに渡り、プリンストン大学のSemmelhack研で学位を取り、カリフォルニア工科大学のStoltz研でポスドクとしてビスインドールアルカロイドDragmacidin Dを全合成した強者です。それに対して、Siegelは王道ルート。ハーバード大のMyers研でテトラサイクリンの効率的な全合成に携わり、その後、Danishefsky研で1人で合成困難な天然物Garsubellin Aの全合成を達成しました。
と、全く異なるバックグラウンドですが、非常に実力のある化学者として認知されていたわけです。現在2人は30代中頃を過ぎたあたり。アメリカでは通常博士取得後、約2年間ほど博士研究員として働き、その後助教授(Assistant Professor)となります。二人も少し時間はかかっていますが、Sarpongは2004年にカルフォルニア大学バークレー校で、Siegelは2007年にテキサス大学オースティンでそれぞれ自分のグループを持ちました。通常5年ほどでテニュア(終身雇用)を取るテニュアトラック教員という枠組みになるわけですが、もちろん結果を出さなければ大学を去らなければいけません(Sarpongは今年になってテニュアを取得したようです)。二人の大学は両方ともレベルの高い大学ですから、この5年で今までとはことなる自分の核となる研究を確立しながら、研究室をすべて自分で運営しねければなりません。日本に比べて非常に困難ですがやりがいのあるポジションであると思います。
コンプラナジンの合成戦略
さて、話は元にもどり二人の合成タクティックスについてお話しします。この化合物見ていただければお分かりのように、冒頭に記したlycodineという化合物の二量体です。そのため「できるだけ同じ原料を使って、最終的に”二量化”することができれば効率のよい合成戦略」となります。Sarpongは赤色、つまり、lycodineを2つ(左側部分:left unit 右側部分:right unit)にわけてピリジン環の2位と3’位を結合するという戦略にでました。それに対して、Siegelはピリジン環分解し、以下のように大枠として左側部分:left unit、炭素4つの骨格:C4 unit, 右側部分:right unitに分けました。以下の図の酸化段階を整えればどのような化合物が必要であるかはおわかりでしょう。
両者ともレゴのように「このままガチャッとくっつける」ことができれば有機合成化学はシンプルになるのですが、そうはいきません。それでも両者ともかなり綺麗な合成ルートでcomplanadineAの全合成を達成しています。それでは実際の合成を見ていきましょう。
Sarpongの合成
left unitからパラジウム触媒を用いてトリフレートを除去した後に、イリジウム触媒を用いた直接的なメタ選択的ボリル化、すなわちHartwing-Miyauraボリル化反応を用いて、有機ボロン酸(ringth unit)を合成しています。こうなれば簡単であとは鈴木ー宮浦カップリングを行うだけ。left unitから2段階でright unitを合成し、カップリングさせる。非常に単純ですが、直接的なボリル化反応を官能基化された化合物に応用し、綺麗に仕上げています。
Siegelの合成
それに対して、Siegelはleft unitからC4 unitであるアルキンをコバルト触媒存在下作用させ、[2+2+2]環化反応を行い、ピリジン環状のTMS基の除去の後、もう一度今度はright unitとの[2+2+2]環化反応によりcomplanadineの骨格合成に成功しました。その後保護基の除去を経てcomplanadineの全合成を達成しました。オリジナルの反応はもちろん報告されていますが、あまり複雑な天然物合成には用いられておらず、有機金属触媒による合成反応の有用性も同時に高めた合成であるといえます。
最後に
それぞれのunitの合成も王道ですが効率に行っており、総じて二人の仕事は高い評価を受ける合成であると思います。是非元文献を参照ください。
といったわけで、今回の仕事は二人にとって助教授時代の代表的な仕事の1つとなると考えられます。今後の二人の活躍に注目したいと思います。
追記 (2015年7月)
5年後、この二人の化学者はどうなったでしょうか。Sarpongはこの仕事のすぐ後に、准教授となり2014年7月よりUCバークレーの教授となりました。現在でも天然物合成とその革新的合成方法論の開発を行なう化学者です。最近ではアルカロイドの合成でNatureに掲載されています。
Mercado-Marin, E.V.; Garcia-Reynaga, P.; Romminger, S.; Pimenta, E.F.; Romney, D.K.; Lodewyk, M.W.; Williams, D.E.; Andersen, R.J.; Miller, S.J.; Tantillo, D.J.; Berlinck, R.G.S.; Sarpong, R. Nature 2014, 509, 318-324. DOI: 10.1038/nature13273
一方のSiegelですがつい最近UCサンディエゴ(UCSD)に准教授として移ったようです。論文数は少ないものの着実に結果を出しているようで、彼もまた2013年には金属フリーのベンゼンからフェノールへの直接酸化反応でNatureに論文を掲載されています。
Yuan, C.; Liang, Y.; Hernandez, T.; Berriochoa, A.; Houk, K. N.; Siegel, D. Nature 2013, 499, 192. DOI: 10.1038/nature12284