新しく合成した化合物を論文に投稿する際、NMRやX線による構造解析の他にも、融点やMass、元素分析などのデータもしっかりと測定します。院生時代、筆者が合成した新規化合物のほとんどには色がついていたので、頻繁にUV-Vis測定も行っていました。
このUVスペクトルデータ、いろんな見方ができると思いますが、注目すべき点の一つとして「最長波長吸収帯」があります。長波長側はエネルギーが低い領域で、「最長波長吸収帯」は分子中で遷移エネルギーが小さなHOMO-LUMOギャップと相関があります。
例えば、HOMO-LUMOギャップが小さく成なる程、最長波長吸収帯はより長波長側にあらわれる、といった具合です。
で、ある時ふと気がついたのですが、波ってエネルギーに換算できるので、UVからHOMO-LUMOギャップを見積もることができるんですね。というわけで、簡単に計算できる方法を以下の式から見積もったのです。
結果はこんな感じ。A nmという最長波長吸収帯を持つ分子のHOMO-LUMOギャップ(kcal/mol or eV)。
例えば、最長波長吸収帯が400 nmに現れる化合物なら、そのHOMO-LUMOギャップはおよそ71 kcal/mol。
UVは溶液中で測定するので、厳密には、その分子の最安定構造におけるHOMO-LUMOギャップでは無いだろうし、遷移状態の構造も最安定構造とは異なります。分子によっては溶媒にかなり影響されるものもありますので、あくまでも目安程度の式ですが。簡単にまとめると以下のとおり。
理論計算で最適化して見積もったHOMO-LUMOエネルギー差と、ほど良く相関が見られたのを覚えています。どうでしょう、みなさんの化合物の色とHOMO-LUMOギャップに近い値でしょうか??
また最長波長吸収帯は、化合物の色にも影響を与えます(注:最長波長吸収帯だけではなく、吸収帯全体の位置や吸光係数の大きさに依存します)。
(紫:380-450nm、青:450-495nm、緑:495-570nm、黄色:570-590nm、橙色:590-620、赤:620-750nm)
「波長」には上図のような感じで色があり、化合物がそこに吸収帯を持つということは、それ
以外の色を示すことになります。
例えば、300nm~辺りに強い吸収帯があると化合物は黄色、もう少し長波長側で400nm~だと赤~橙、600nm~緑、700nm~で濃青、800nm~黒に近い、といった具合でしょうか。
いろんな化合物の吸収帯の位置や組み合わせ、吸光係数の大きさを覚えると、論文や学会等で、新しい化合物の色を見た時に、
「ははぁ~ん、この辺りに吸収帯があってHOMO-LUMOギャップはこのくらいだな」と地味に楽しむことが出来ます。
と言うわけで、色のある新規化合物を論文に投稿する際には、きちんとUVも取りましょう!
他にも化合物の性質を簡単に見積もれる面白い方法を知っていたら、是非教えて下さい。
有益な情報はみんなで共有しましょう。
参考文献
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