いままでこの「化学者のつぶやき」においてもいくつかの”研究活動に役立つソフトウェア、Web“を紹介してきました。そこでも毎回述べている通り、昨今のそれらは化学研究ライフハックとして十二分に利用できるもので、最近では多くの方が様々な自分にあったソフトウェア、Webを活用しているものと思います。
ところでこれは完全に著者の独断意見ですが、Evernoteは化学研究、特に文献やスクラップの管理として質、価格ともに最高のソフトウェアであると思っています。ところが、最近仕事中に
「Mendeleyって文献管理ソフト恐ろしく使えるらしいよ」
というツイートが流れていきました。いつもならあまり気にも留めないのですが、最近はEvernote以外の文献管理法を知らなかったので少しだけ気になって、現存する人気文献管理ソフトを比較調査してみる事にしました。できれば一番よいものを使いたいですよね!
題して、
「最強の文献管理ソフトはこれだ!」
とはいっても最終的な結論でこれだ!とはいえておりませんのでご容赦を。
Evernote:最強の情報管理ソフトウェア!
かなりの人が利用していると思われる現在最強の情報管理ソフト。文献を管理するというよりもアイデアや好きな、使えるWebクリップ、ファイルなど統合的にすべてを保存できます(一部例外有り)。私の場合は、
論文から学生の卒論、修論、D論、アイデア、重要情報、Webで研究やサイト作りのの参考になるもの、自分でスキャンした昔の資料….
すべてぶち込んでいます。
“ぶち込み方”も簡単。アイコンにファイルをドラッグしてもよいし、論文ならば論文表示の後、ブラウザメニュー及び図のようなicon(ウェブクリッパーと呼ぶ)をクリックするだけ。また、Webだったら同様に1クリックでPDFで保存できる。簡単です。
もっと具体的にいえば、ACSからメールで送られてくるC&ENをパラパラみて、ほしい情報だけクリップ。範囲指定して画面キャプチャーですることもできるのです。有料版を使えば皆様が好きな動画も取り込んでおいて後々みることもできます。
すばらしいところは「どんなモノでも取り込んだすべての情報の中から横断して検索できる」こと。特に最近は日本語検索にも対応になり、さらに便利になっています。論文の管理に関してはこちらの記事を。こんな多機能ソフトウェアが無料で使えるなんて…すばらしい。
さて、褒めてばかりではいまいちなので悪い点、こんなもの会ったらというのを文献管理に焦点を絞って少々。
1. PDFには直接コメントなどを付ける事ができない。
2. あるキーワードや人名を使って文献を集めたいときなどには全く適していない。
3. 論文を書く時に引用しようと思うと全部手動で打たねばならない。つまりそれが面倒ならば別途Endnoteなどのソフトが必要でダウンロードもしなければならない。
4. 独自のフォーマットを使っているのでPDFファイルとして復帰するのは困難。
5. iphone用のソフトもあり、小さな情報は簡単に同期できてすぐに見られるが、論文が大きなファイルになるとiphoneで見る為にかなりの時間を要する。
6.情報はどのPCでも見る事が可能であるが、 月にオンラインストレージにアップできる量が決まっており、 ヘビーユーザーだと下手すると2,3日でいっぱいになる。有料版で10倍の量に拡張できるが、それでも足らない事が多い。
7.論文のURLは記録される場合があるが、論文自体を保存しているのでその実験項を見るため、それがSupporting informationにあるときにもう一度その前のWebページに検索して行かなければならない。また、ASAPを保存した時ページ数を確認したければ同様である。
8.会社に属しているとアクセス禁止であることがあるらしい。
文句をいったらきりがないですが、大多数がオフラインでPC上の多種類の情報を一元管理するという意味ではやはり最強のソフトウェアです。
それでは他のソフトウェアはどうでしょうか。簡単にみていきましょう。
Mendeley:すべてが無料!多機能文献管理ソフト!
冒頭に記載した通り、Twitterで何者かが(すみません忘れました)気に入っていたMendeleyをダウンロードし、導入してみました。Win, Mac, Linax版とOSの許容範囲はとても広いようでした。起動もEvernoteと同じぐらい早くその点は問題はありません。論文をいくつか入れて後の見た目はこんな感じです。
起動後、ダウンロードした論文をEvernoteと入れていくのみ。もちろんウェブクリッパーもあります。勝手に論文から情報を受け取りあまり正確ではないですが、情報を整理してくれるようです。さらにその正確ではない情報をワンクリックデータベース(PubmedやGoogle Scholar)とアクセスし、正確なものにしてくれます。Evernoteのように題名やタグを変える事も記入することもできますが、その必要はありません。論文間の全文検索もしてくれ、その様子はEvernoteよりも正確性にたける気がしました。さらに元論文(PDFファイル)は指定したフォルダに名前も環境設定で設定したフォーマットに従って、勝手に変更し保存してくれる。
上図の情報は、引用フォーマットを選べばほぼ正確に引用文献の記載をしてくれます。もちろんEndonote(後述)ようにWordと連携して引用文献の整理は難しいかもしれないが、引用文献のすくないレターを執筆する場合や内部の報告書の引用文献には全く問題がないと思われます。データは専用のWebにも保存され、常にSyncできるので、IDとパスワードさえ有ればどのPCでも制限なく集めた論文がみれそうです。シュロ腐れている論文はEvernoteと異なり論文のある部分のハイライトやコメントの記載が可能です。その他にもWebには他のユーザーがダウンロードした論文数ランキング、著者名ランキング、SNSフォーラムなどもあり、そういった共有システムもだ大分整っているようです。頻繁にアップグレードもされており、まさに、文献整理(引用文献作成も若干含む)に特化したEvernoteといったところでしょうか。しかも完全無料。びっくりです。いくつか弱点、改善点を述べますと、
1. 主要化学雑誌のAngewanteはウェブクリッパーが使えない(論文のダウンロードが必要)
2. OS対応やWebは充実しているのに、iPhone版がない!
3. 英語版のみである。
4. おそらく日本語検索にはあまり対応していない。
5. Evernoteと同じくキーワードでcitaction情報を取得できるような機能はない。
といったところです。概して好印象でした。citation情報は取得できませんが集めたものEndonote形式で書き出す事ができます。また、我々のようにWebでいくつか論文を紹介し記載する人にとっても、引用文献を記載する必要なくコピー&ペーストでいけるので大変便利です。
と、意外に論文管理に関してはこちらを使った方がよい気がしてきました。ただ、iphoneユーザーの著者にとってはiphone用のソフトがほしいところです。(【追記】現在iphone用のソフトウェアを開発中であるそうです)
その他もう1つシェアウェアですが、評判がよいものがありましたのでご紹介します。
Pepers: 高性能使い勝手抜群な文献管理ソフト!
文献管理ソフトで現在注目されているソフトウェアです。同様に起動も速くスムーズでした。見た目もituneに類似していて、coolです。
上記のEvernoteとMendeleyと最も異なるところはEndnoteのようにPubmedやWeb of Scienceなどにキーワードで検索してcitation情報をすべて手に入れる事ができることです。検索も簡単ですぐにcitation情報を手に入れる事ができます。そのためAbstractなどの細かい多くの情報を手に入れる事ができます。さらにここからが本番で、検索した文献情報をクリックすると、ソフト内のブラウザで論文誌のサイトにアクセスすることができ、そのまま論文をダウンロードすると、そのまま論文を持ってきてくれます。つまり、わざわざPCのデスクトップ等にダウンロードしてそれを入れる手間がありません。また、元URL(論文PDFの手前のWeb)にもいつでもアクセスできます。もちろん持っている論文をアイコンにドラッグすることもできますし、それもデータベースに勝手にアクセスし正確な情報に変えてくれ、そこからも元URL(論文PDFの手前のWeb)にアクセスできます。さらにiphone版があり、非常に高速に論文を表示する事ができます。つまり、Evernoteの欠点をすべて補っています。もっとも簡単に、自分の文献データベース構築ができるソフトといってもよいでしょう。これは有料だが完璧だ!!と思っていました。しかし、一部の方にはかなり致命的な欠点がありました。
1..引用文献フォーマットが貧弱でなぜかNature用のフォーマットしかない(Natureに投稿するひとばかりなのか : < )。
2.論文に直接コメントの記載や文章のハイライトができない。
3..残念ながらMacしか使えない。
4.製品版(現在4700円前後)、iphone版(1700円)と有料である。
5..全論文検索は使えない(【2010.4.30】追記使えました。)
6.英語版しかない
7.おそらくこれも日本語検索にはあまり対応していない
8.iphoneとの接続がwifiしかない
簡単にコピー&ペーストできるフォーマットが少ないのは知らないだけだと思い、いろいろ調べましたがないようです(あったら教えてください)。さらに残念ながらWinユーザーは使う事ができません。さらにさらに、上記2つのソフトにあった全文検索が使えず、大量の論文の場合見失う可能性があります。(【追記 2010.4.30】普通に使えました。) ただし、Abstractがかなりしっかりとしているのでそういう意味では大丈夫であるかもしれません。もちろん個々のPDFの中身検索はできます。ただし、mendeleyと同様に頻繁にアップグレードを繰り返しており、後々変わる可能性は多いにあります。有料というのが難点ですが、学生の場合40%引きで購入することができるようです。
最後に、昔からのスタンダードであるEndnoteについて簡単に紹介しましょう。
EndNote:高価であるがやはりスタンダード
ロングセラーの文献管理ソフトで、今なおスタンダードとされています。私が所有しているものは一つ前のバージョンであるX2ですが(現在はX3)、それでももちろん上記に紹介した文献管理ソフトの機能をフルに有しています。それでもPDFを自動でダウンロードしてくれることは他のソフトにない非常に便利な機能です。Wordやその他ソフトウェアとの連携も抜群ですし、総説や博士論文を書く時は、あるひとつの文献番号を追加・変更すると、他の文献もすべて自動で変更してくれるので重宝します。出力スタイルも3,700種以上あり、どの論文を書く時でも問題がありません。つまり引用文献や、脚注を付ける時にはこれを使う他はないといわれるぐらいに素晴らしいソフトウェアです。
1.有料。しかも高い!一般なら5万円、アカデミック版でも3万円します。個人では考える値段ですね。
2.自身に文献閲覧機能がなく、文献の閲覧という点では、非常に使いにくい。
3.インターフェースが古くさい。X2だからかもしれません。
4.全文検索機能がついていない。
個人購入する場合は値段が高いのが一番のネックだと思われますが、個人的な意見としては使いにくく、文献閲覧機能がないのがかなりいまいちなところです。またインターフェースがX2だからなのかあまり良く有りません。日本語マニュアルはあるもののもちろんすべて英語です。論文間の中身の全文検索機能やタグ、コメント機能はついておらず、またASAPなどをみて面白いからといって保存しておくような使い方はあまり期待できません。
その他の文献管理ソフトウェア
この4つ以外にもいろいろと文献管理に関するソフトウェアはあります。どれもこれも特徴がありますが、詳しい事はわかりません。
iPapers : Mac用。ituneっぽい文献管理ソフト。Pubmed検索可能。Referenceを書き出す機能はなし。
RefWorks : webベース管理。
Endnote web:Endnoteのweb版。
Bookends:Mac用。99ドル。
Sente:Mac用。これも99ドル。
Zotero:無料。Firefoxのアドイン。ちょっとアバウトな感じ(著者の感覚。他のブログやコメントでは好評価を得ているようです)dropboxとの併用が便利。
【追記2010.4.30】読者様オススメソフト!ご意見ありがとうございました!
BibDesk:Mac用。無料。
BibCompanion:Mac用。無料BibTeXデータベース形式に準拠した参考文献管理ソフト
JabRef:Mac&Linux用。無料
WizFolio:オンライン文献管理ソフト。1GBのフリーストレージ無料。シェアが容易。Word用の文献挿入ウィザードもあり。Referenceを作成する場合は有料。
pKizzy:Mac用。
まとめ
以上、文献管理ソフトを紹介してみましたが、それぞれに長所、短所がありオールマイティーの文献管理ソフトはないといったことが現状のようです。あえて用途に分けて一言でいうならば
Evernote:とにかく論文やそれ以外のいろいろな新しい情報収集として使いたい
Mendeley: お金をかけないで、文献管理に特化したEvernote
Papers:ちょっとぐらいならお金を払ってもよいが、閲覧、検索、引用に関してMendeleyとEndonoteを足して2で割った感じ
EndNote:お金は問題なく、論文の引用文献に主に利用し、とくに文献閲覧の手軽さや全文検索にはこだわらない
といった感じになります。もちろん他にも多くの文献管理ソフトがありますが、ここではこの4つにとどめておきます。
みなさんの文献管理ソフトNo.1はなんでしょうか?
ご意見をおきかせください!
ちなみに私は、Evernote、Papersを併用しています。Papersはiphoneで論文閲覧が楽ですし、引用文献をつくりたい時はそこからEndonoteへエクスポートできるためです。