Knochelのグループが開発したLi塩を添加するターボGrignardは、ハロゲン-メタル交換反応の反応速度・官能基共存性・効率・条件の温和化などを大幅に改善します。反応が加速する理由としては会合体が分解され、系中で発生するi-PrMgCl-LiClのi-Prのアニオン性が向上が考えられているようです。(TMP誘導体で構造解析も報告されています)
また、Knochelは、このLiCl存在下における活性化が亜鉛挿入反応にも効果があることを見出し、活性種としてLi+ZnRClX-を提唱されています。
今回、理研の内山先生、京都大学諸熊先生らが LiClの効果を実験とDFT計算を組み合わせ、亜鉛挿入反応の加速効果を位置選択性を含め明らかにしました。
Reaction Mechanism for the LiCl-Mediated Directed Zinc Insertion: A Computational and Experimental Study:
Liu, C-Y.; Wang, X.; Furuyama, T.; Yasuike, S.;Muranaka, A.;Morokuma, K, Uchiyama, M. Chem. Eur. J. 2010, 16, 1780. DOI:10.1002/chem.200902957)
論文ではPhBrへのZnの挿入反応をモデルに、遷移状態であるハロゲンのアート錯体の安定化への寄与、遷移状態におけるZnからCl、LiからBrへの軌道相互作用における安定化効果を明らかにしています。さらにオルト位の置換基による位置選択性の効果も明らかにしています。
筆者は学生時代、条件は異なるのですがBuLi/t-BuOKの複合塩基が塩基性をあげる機構に関して、Collumグループのペーパーを中心に子引き、孫引きして調べたことがありました。
その結果、
- Kにトランスメタル化している
- Liの会合体を分解する
- 新しい会合体ができている
と3つの意見があり、結局うやむやのままそのままにしていました。その後、Knochelのturbo Grignardのペーパーを読んだ際も、同様に活性種に対しての疑問は続いており、Liの働きはどうなっているんだろうと思っていました。
今回のペーパーを読んで、系はZnの反応ではありますが、疑問が解決したような気分になりました。亜鉛の挿入という基礎的な反応ですが、遷移状態の構造に関して有機金属はまだまだ深いなと思います。
もしturbo Grignardの活性種の構造に関する論文をご存知の方がおられましたら、コメントでご教授頂けたらと思います。
関連リンク
- Knochel group (LMU Munchen)
- 選択的メタル化、脱プロトン化および付加反応のための新規試薬(Aldrich)
- 内山研究室(理化学研究所)