佐藤健太郎氏の「有機化学美術館・分館」やchemistry worldでも取り上げられられていますが、Nature Chemistry 2010, 2, 112-116.にて、5配位ケイ素-5配位ケイ素間の結合をもつ化合物が見いだされました。
この結合のインパクトは、
- 4級炭素-4級炭素結合を作るのが困難であるように立体反発で困難であること
- また電子的にも反発しあうマイナスの電荷同士が結合していること
- そのような不安定と思われる結合が安定に存在することが示されたこと
です。佐藤健太郎氏の「東大化学GCOEブログ」にて非常にわかりやすく、その新規性・特異性が説明されています。
近年の典型元素のトレンドは低原子価に向かっていました。(C&E News 2009, Apr. 20) このトレンドは、80年代にSi=Si結合、P=P結合が合成され、立体的に保護するというコンセプトが出されたことから始まり(Chem. Commun., 2009, 5201.)、さらに近年では安定カルベンが配位子として低原子価を安定化しうるというコンセプトが転換点となり(例えばACIEE, 2009, 48, 9701)、遷移金属との反応の類似性など機能的な応用への研究トレンドも始まっています(nature 463, 171)。
今回のdisilicatesは、低配位へのトレンドの始まりと同様、大学院レベルの教科書に載るほどの発見だと筆者は思います。狙った合成ではなく、発見そのものはセレンディピティーとのことですが、従来存在さえ考えられてこなかった高原子価同士の結合であり、周期表の他の元素での検討も始まると思われます。また今回の仕事は立体的・電子的に適切な置換基を設計することで、合成が可能であるコンセプトも示唆されており、disilicatesは典型元素化学のトレンドを高原子価へと切り替えるランドマーク的な業績だと感じています。