Practical and Highly Selective Sulfur Ylide Mediated Asymmetric Epoxidations and Aziridinations Using an Inexpensive, Readily Available Chiral Sulfide. Applications to the Synthesis of Quinine and Quinidine.
Illa, O.; Arshad, M.; Ros, A.; McGarrigle, E. M.; Aggarwal, V. K. J. Am. Chem. Soc. 2010, ASAP doi:10.1021/ja9100276
Corey-Chaykovsky反応はアルデヒドに硫黄イリドを1,2-付加させ、エポキシドを合成する反応です。
当然ながら、光学活性なスルフィドを用いた不斉化の試みはいくつもなされています。ユニークな反応形式が期待できるものの、その実用度は未だ発展途上です。とにもかくにも、性能のよいスルフィドキラル補助基の調整が難しい、というのが実用性を下げている大きな要因としてあるようです。英ブリストール大学・Aggarwalらによってこのたび開発されたキラルスルフィド補助基は、この反応形式における問題点をかなり解決したものになっています。
彼らは光学活性なスルフィド・イソチオシネオールを安価なリモネンから大量合成し、不斉Corey-Chaykovsky反応へと適用しています。リモネンは両鏡像体ともに市販されており、反応は1モルスケールでも実行可能だそうです。合成の際、添加剤としてターピネンを加えると良いとのこと(理由は明らかではない模様)。
不斉Corey-Chaykovsky反応は多くの場合、脂肪族アルデヒドに適用が無いのですが、この方法を使えば、シクロヘキサンカルボクスアルデヒド、n-ブチルアルデヒドなどからもキラルエポキシドが合成可能です(収率は若干低めですが)。またTsアルドイミンへと付加させればキラルなアジリジンも得られます(冒頭スキーム)。
本反応の有用性を示すデモンストレーションとして、彼らはキニーネ・キニジンを半合成を行っています。すなわち共通中間体たるアルデヒドに、硫黄イリドのエナンチオマーをそれぞれ作用させエポキシドを合成、引き続くアミンの分子内求核置換によるエポキシド開環を経て、それぞれのルートでキニーネ・キニジンを作り分けています。
この合成経路自体はJacobsenらの既報ルート[1]をかなり踏襲したもののようですが、炭素炭素結合形成・キラルエポキシド合成を一段階で行える本法の強力さゆえ、ルートの短工程化に成功しているのがポイントと言えそうです。
キニーネ・キニジンの立体選択的合成については、先だって全合成界における一大トピックでもありました。仕事のインパクトを上げる目的として見れば、スマートなターゲット選定だと思えます。
論文にも注釈がありましたが、東京化成(TCI)から市販さています(以下参照)。条件も簡便でありながら選択性が高く、キラルエポキシドを実用的に得る新たなチョイスとなってくれそうに思います。
関連文献
[1] Raheem, I. T.; Goodman, S. N.; Jacobsen, E. N. J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 706. DOI: 10.1021/ja039550y関連リンク
- Aggarwal Group
- TCIメール キラル硫黄イリド試薬
- CAS: 5718-75-2 | TCI製品コード: T2578 (1R,4R,5R)-4,7,7-Trimethyl-6-thiabicyclo[3.2.1]octane
- CAS: 1208985-45-8 | TCI製品コード: T2579 (1S,4S,5S)-4,7,7-Trimethyl-6-thiabicyclo[3.2.1]octane
2020.06.19 試薬情報追記 Gakushi