”Catalytic SNAr reaction of non-activated fluoroarenes with amines via Ru η6-arene complexes”
Otsuka, M.; Endo, K.; Shibata, T. Chem. Commun. 2010, 46,336. doi:10.1039/b919413d
今回の記事では、早稲田大学・柴田高範教授らのグループによって報告された、芳香族求核置換反応を促進させるルテニウム触媒を取り上げます。
芳香環に置換基を導入する手法としては、求電子置換反応(SEAr反応)による方法がスタンダードです。
その一方で芳香族求核置換反応(SNAr反応)は、通常きわめて進行しにくい反応であるとされています。ごく限られた基質、つまりニトロ基・シアノ基などの強電子求引基やフッ素を脱離基とする芳香族化合物のみが、SNAr反応形式を受け入れるとされています。
電子不足ではないベンゼン環にて、マイルドな条件下にSNAr反応を進行させることはできるのでしょうか。結論から言えばそれは可能です。
一つの手法として、クロム(0)トリカルボニルη6-アレーン錯体に変換する方法が知られています。クロムトリカルボニル基は強い電子求引性を示すため、「電子不足でないベンゼン環を電子不足にしてしまう」ことができます。このためSNAr反応以外にも、あらゆる独特な変換を施すことが可能となります。
そういった背景ゆえに、触媒量の金属でSNAr反応を促進させる系の開発が望まれていました。
柴田らは、クロムと同様にη6-アレーン錯体を構成する金属(Ag, Rh, Ruなど)に着目し、検討を行いました。最終的に冒頭スキームのような条件に行き着いています。
彼らの系で一つミソとなっているのは、トリエチルシラン(Et3SiH)の添加です。反応進行に伴い生成してくるHFが触媒活性を落としてしまうため、そのスカベンジャーとして加えているとのこと。
ルテニウム触媒の構成成分(Ru(cod)(2-methylallyl)2 + DPPPent + TfOH)は、以前J.F.Hartwigらによって報告されたヒドロアミノ化触媒と同様のものです。 この反応もルテニウムη6-アレーン錯体経由で進むとされ、反応中間体とおぼしき錯体は、Hartwigら自身によって構造解析がなされています。また柴田らもNMRと質量分析を駆使した解析によって中間体に関する知見を得ており、以下のようなルテニウムη6-アレーン錯体経由の触媒サイクルを結論づけています。
効率面ではまだまだ課題の残る系ですが、なかなかユニークな論文と思います。
実は筆者もまったく同じアプローチを以前思い付きまして、いつか暇なとき試してみるかな・・・なんて思ってたのはここだけの話。やっぱ同じようなことは、誰かしらが世界のどっかで考えてるもんですなぁ・・・。