[スポンサーリンク]

一般的な話題

プロドラッグって

[スポンサーリンク]

プロドラッグ」という言葉をご存知でしょうか?

生体内で何らかの変換を受けた後に、活性を発現する薬物のことを指します。活性体が持つ物理的・化学的あるいは薬物動力学的に不利な点(具体的には、溶解性、吸収性、移行性、毒性、代謝の受けやすさなど)を克服するために設計された薬物です。そう!今や時の薬となった「タミフル」もプロドラッグの一つ。

 

タミフルの真の活性体は上図の右に示したカルボン酸体です。しかし、我々が薬として飲んでいるタミフルはエチルエステルで保護された状態のものです。タミフルは経口薬で、腸を主とした消化管から吸収されます。しかし、カルボン酸のような極性基は細胞膜に対する透過性が悪く、このままでは吸収が困難です。そこでエステルで保護し脂溶性を上げることで、経口吸収性を担保しています。タミフルは内服後、肝臓にある代謝酵素であるカルボキシルエステラーゼ(CE)により速やかに活性物質へ変換されます。

プロドラッグにはさらにバージョンアップされたものが開発されています。その一つがカペシタビン(capecitabine)と呼ばれる経口抗がん剤です。カペシタビンの真の活性体はFluorouracil(フルオロウラシル;以下5-FU)です。もとのカペシタビンの構造と比べてかなりシンプルですね。さてどうやってカペシタビンは5-FUへと変換されるのでしょうか?

pro-drug3.gif
 経口薬のカペシタビンは消化管で未変化体のまま吸収された後、
肝臓のカルボキシルエステラーゼ(CE)により加水分解され5′-DFCRとなる.次に主として肝臓や腫瘍組織に存在するシチジンデアミナーゼ(CD)により5′-DFURに変換される.更に,腫瘍組織に高レベルで存在するチミジンホスホリラーゼ(TP)により活性体である5-FU に変換され抗腫瘍効果を発揮します。つまり、本剤はトリプルプロドラッグということになります。んー、考えた人すごい。合成も大活躍です。

 ここまではキレイな話ですが、デメリットもあります。研究の複雑化です。代謝によって脱離した部分に毒性があってはなりません。代謝物の代謝物も出来てきます。それらの排出経路・薬物相互作用もしっかり把握しなければなりません。脱離速度と薬効の相関がきちんとしてないといけません。などなど、仕事量が倍になるのは間違いなしです。

  • 参考文献

日薬理誌(Folia Pharmacol. Jpn.)122,549~553(2003)

Avatar photo

matsumoto

投稿者の記事一覧

修士(工学)。学生時代は有機合成・天然物合成に従事し、現在は某製 薬メーカー合成研究員。

関連記事

  1. 【速報】2017年ノーベル化学賞は「クライオ電子顕微鏡の開発」に…
  2. 化学探偵Mr.キュリー8
  3. 第36回ケムステVシンポ「光化学最前線2023」を開催します!
  4. OPRD誌を日本プロセス化学会がジャック?
  5. 夏休みのおでかけに最適! 化学にまつわる博物館5選 ~2024年…
  6. 人工軟骨への応用を目指した「ダブルネットワークゲル」
  7. 可視光エネルギーを使って単純アルケンを有用分子に変換するハイブリ…
  8. 第九回ケムステVシンポジウム「サイコミ夏祭り」を開催します!

注目情報

ピックアップ記事

  1. 保護により不斉を創る
  2. ユニークな名前を持つ配位子
  3. 第40回「分子エレクトロニクスの新たなプラットフォームを目指して」Paul Low教授
  4. 「引っ張って」光学分割
  5. 酢酸エチルの高騰が止まらず。供給逼迫により購入制限も?
  6. ニュースタッフ参加
  7. みんなーフィラデルフィアに行きたいかー!
  8. ノーベル賞の合理的予測はなぜ難しくなったのか?
  9. ポンコツ博士の海外奮闘録② 〜博士,鉄パイプを切断す〜
  10. 【6月開催】 【第二期 マツモトファインケミカル技術セミナー開催】 題目:有機金属化合物 オルガチックスを用いた架橋剤としての利用(溶剤系)

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2009年11月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30  

注目情報

最新記事

「MI×データ科学」コース ~データ科学・AI・量子技術を利用した材料研究の新潮流~

 開講期間 2025年1月8日(水)、9日(木)、15日(水)、16日(木) 計4日間申込みはこ…

余裕でドラフトに収まるビュッヒ史上最小 ロータリーエバポレーターR-80シリーズ

高性能のロータリーエバポレーターで、効率良く研究を進めたい。けれど設置スペースに限りがあり購入を諦め…

有機ホウ素化合物の「安定性」と「反応性」を両立した新しい鈴木–宮浦クロスカップリング反応の開発

第 635 回のスポットライトリサーチは、広島大学大学院・先進理工系科学研究科 博士…

植物繊維を叩いてアンモニアをつくろう ~メカノケミカル窒素固定新合成法~

Tshozoです。今回また興味深い、農業や資源問題の解決の突破口になり得る窒素固定方法がNatu…

自己実現を模索した50代のキャリア選択。「やりたいこと」が年収を上回った瞬間

50歳前後は、会社員にとってキャリアの大きな節目となります。定年までの道筋を見据えて、現職に留まるべ…

イグノーベル賞2024振り返り

ノーベル賞も発表されており、イグノーベル賞の紹介は今更かもしれませんが紹介記事を作成しました。 …

亜鉛–ヒドリド種を持つ金属–有機構造体による高温での二酸化炭素回収

亜鉛–ヒドリド部位を持つ金属–有機構造体 (metal–organic frameworks; MO…

求人は増えているのになぜ?「転職先が決まらない人」に共通する行動パターンとは?

転職市場が活発に動いている中でも、なかなか転職先が決まらない人がいるのはなぜでしょう…

三脚型トリプチセン超分子足場を用いて一重項分裂を促進する配置へとペンタセンクロモフォアを集合化させることに成功

第634回のスポットライトリサーチは、 東京科学大学 物質理工学院(福島研究室)博士課程後期3年の福…

2024年の化学企業グローバル・トップ50

グローバル・トップ50をケムステニュースで取り上げるのは定番になっておりましたが、今年は忙しくて発表…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP