[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

水をヒドリド源としたカルボニル還元

[スポンサーリンク]

カルボニルの1,2-還元のヒドリド源として水素、ボラン、ヒドロシラン、・・・etcありますが、

ヒドリド源に水を用い、還元を温和な条件下で達成した反応が報告されましたので紹介します。

 

6cophos1.gif

東京大学理学部川島教授らの報告です。(JACS 2009, 131, 16622. doi:10.1021/ja906875d)

水-H2O-の水素原子は、通常の極性ではプロトン供与体として働き、ヒドリドを発生させた場合には、水素H2が発生してしまいます。今回、異性化を経由することで、水の極性反転を行いヒドリド源として用いることを可能とする新規分子が開発されました。

この分子はMartin Ligandを用いた、6配位ジヒドロホスフェイトとして単離されました。

 

6cophos2.gif

 

このジヒドロホスフェイトをカルボニルと反応させることで、温和な条件下1,2-還元が進行します。

(還元はMartin Ligandを用いた高配位ケイ素化合物でも知られており(Chem. Lett. 1987, 2243.)、還元までの着想は同様なものと類推します。)

 

新規分子の単離同定や反応性だけでは終わらせず、さらにP原子の特性を活用しています。即ち、重水素中酢酸存在下、スキームの平衡を経て重水素体に変換し、カルボニルへの重水素付加により、比較的安価である重水からの極性反転を達成しました。

 

6cophos3.gif

実用性という点では、収率、反応性、選択性など、まだまだ難しい点もあり、発展させる余地もありますが、異性化という性質を巧みに利用することで、重水素の極性反転をアピールした面白い論文です。

 

lcd-aniso

投稿者の記事一覧

企業にてディスプレイ関連材料の開発をしております。学生時代はヘテロ原子化学を専攻していました。私のできる範囲で皆様に興味を持っていただける 話題を提供できればと思います。

関連記事

  1. 非平衡な外部刺激応答材料を「自律化」する
  2. 電子学術情報の利活用
  3. 【ナード研究所】新卒採用情報(2025年卒)
  4. 工程フローからみた「どんな会社が?」~OLED関連
  5. 水素化ナトリウムの酸化反応をブロガー・読者がこぞって追試!?
  6. N-オキシドの性質と創薬における活用
  7. リアル『ドライ・ライト』? ナノチューブを用いた新しい蓄熱分子の…
  8. 遺伝子工学ーゲノム編集と最新技術ーChemical Times特…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 未来のノーベル化学賞候補者(2)
  2. 2023年化学企業トップの年頭所感を読み解く
  3. 群ってなに?【化学者だって数学するっつーの!】
  4. 最少の実験回数で高い予測精度を与える汎用的AI技術を開発 ~材料開発のDX:NIMS、旭化成、三菱ケミカル、三井化学、住友化学の水平連携で実現~
  5. 化学Webギャラリー@Flickr 【Part 3】
  6. 光触媒による水素生成効率が3%に
  7. 三井化学、触媒科学賞の受賞者を決定
  8. Reaxys無料トライアル実施中!
  9. ヒドリド転位型C(sp3)-H結合官能基化を駆使する炭素中員環合成
  10. ダン・シングルトン Daniel Singleton

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2009年11月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30  

注目情報

最新記事

MEDCHEM NEWS 34-1 号「創薬を支える計測・検出技術の最前線」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

医薬品設計における三次元性指標(Fsp³)の再評価

近年、医薬品開発において候補分子の三次元構造が注目されてきました。特に、2009年に発表された論文「…

AI分子生成の導入と基本手法の紹介

本記事では、AIや情報技術を用いた分子生成技術の有機分子設計における有用性や代表的手法について解説し…

第53回ケムステVシンポ「化学×イノベーション -女性研究者が拓く未来-」を開催します!

第53回ケムステVシンポの会告です!今回のVシンポは、若手女性研究者のコミュニティと起業支援…

Nature誌が発表!!2025年注目の7つの技術!!

こんにちは,熊葛です.毎年この時期にはNature誌で,その年注目の7つの技術について取り上げられま…

塩野義製薬:COVID-19治療薬”Ensitrelvir”の超特急製造開発秘話

新型コロナウイルス感染症は2023年5月に5類移行となり、昨年はこれまでの生活が…

コバルト触媒による多様な低分子骨格の構築を実現 –医薬品合成などへの応用に期待–

第 642回のスポットライトリサーチは、武蔵野大学薬学部薬化学研究室・講師の 重…

ヘム鉄を配位するシステイン残基を持たないシトクロムP450!?中には21番目のアミノ酸として知られるセレノシステインへと変異されているP450も発見!

こんにちは,熊葛です.今回は,一般的なP450で保存されているヘム鉄を配位するシステイン残基に,異な…

有機化学とタンパク質工学の知恵を駆使して、カリウムイオンが細胞内で赤く煌めくようにする

第 641 回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院理学系研究科化学専攻 生…

CO2 の排出はどのように削減できるか?【その1: CO2 の排出源について】

大気中の二酸化炭素を減らす取り組みとして、二酸化炭素回収·貯留 (CCS; Carbon dioxi…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー