Enantioselective Catalysis of the Aza-Cope Rearrangement by a Chiral Supramolecular Assembly
Brown, C. J.; Bergman, R. G.; Raymond, K. N. J. Am. Chem. Soc. 2009, ASAP. doi:10.1021/ja906386w
現在の化学界におけるホットトピック・超分子ケージ錯体。
「つぶやき」でも幾つか先端の研究例を紹介していますが、いずれの例でも外界から隔絶された特異空間を活用した化学が展開されています。
Kenneth Raymond(UC Berkeley)らのグループは今回、それをアザ-Cope転位の不斉触媒として用いることに成功しました。
- 触媒原理
以下に示す四面体形状をもつアニオン性超分子錯体は、アザ-Cope転位反応の触媒として働きます。これは既にアキラルな系で示されています[1]。触媒非添加条件に比べ、約1000倍の反応加速効果があるとされます。
この超分子触媒系では、錯体が作り出す空間内に基質を取り込み、特定の配座に強制誘導してやることが反応促進のカギとなっています。
すなわち、基質が錯体内部に取り込まれると、狭いスペースに押し込められるために、曲がった配座をとることを余儀なくされます。Cope転位に必要となる六員環遷移状態に近い形状となり、すぐさま反応が進行します。反応後は、系中に存在するアンモニウムカチオンと置き換わり、基質が放出されます。放出された基質は加水分解を受けて中性分子となり、アニオン性ケージにはもはや取り込まれなくなります(下図)。
一方、ホストに取り込まれない状態では、主に直線的に伸びた形で存在しています。六員環遷移状態を取るのに要するエネルギー障壁が大きく、触媒のある場合に比べ反応は遅くなる、という理屈です。
特定の官能基に作用する、よくある酸/塩基型の活性化形式ではないため、原理的に大変穏和な触媒反応となり得るのも特徴です。
- アキラルからキラルへ
以前の報告[1]では、ラセミ錯体(ΔΔΔΔ錯体とΛΛΛΛ錯体の1:1混合物)を用いて反応を行っていましたが、今回の報告では両エナンチオマーを分離して用い、冒頭スキームのような不斉反応へと展開しています。錯体ホスト内でのキラル空間で転位反応が起こるため、エナンチオ選択性が発現してきます。
やはり「キラル錯体をどのように調製・単離精製するか」という点に苦心の跡が見られるようです。ラセミ体で合成した跡、そのあとキラルな四級アンモニウム塩((-)-N‘-methylnicotinium iodide)をケージに取り込ませてジアステレオマー錯体とした後に、イオン交換クロマトグラフィにて分離しています。泥臭いやりかたですが、そういう側面はどんな仕事にもあるものですね。
- 関連文献
- 関連リンク
Raymond Group UCバークレイ・レイモンド研究室