ふたを開けると、ばねの力でボヨンと飛び出してくるびっくり箱。
Science (2009, 325, 1668)に掲載された分子びっくり箱を紹介させて頂きます。
カリフォルニア大学デービス校のPower教授のグループによる報告です。
Powerらのグループはアルケンやアルキンの炭素を、高周期元素(ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛等)に置き換えた「重い多重結合」の研究をしています。「重い多重結合」は原子間結合距離が長いため、多重結合を作ることは困難でしたが、近年になりいくつか合成がなされており、、構造も反応性も炭素と大きく異なることが明らかになってきています。
今回、スズ間の三重結合種、Sn≡Snがエチレンとの[2+2]反応を僅かな条件の差異により可逆的に起こすことが見いだされました。
反応はR-Sn≡Sn-R(緑色)とエチレンが25℃以下・1気圧で無触媒下[2+2]反応が進行し、ビシクロ化合物(琥珀色)を与えます。しかし、減圧もしくは昇温するだけで逆反応(!)が起こり、Sn≡Sn(緑色)に戻ってしまうとのことです。
Ge≡Geではこの反応は不可逆であり、またSn≡Snのモデル化合物の計算では、実験結果と異なりビシクロ化合物は非常に安定でした。
彼らは、Sn上にある置換基Rによるビシクロ環のひずみが、熱力学的に微妙なバランスを形成し、可逆になっていると説明しており、このひずみエネルギーをばねの応力とみなし、“Jack in the box”(びっくり箱分子)と名づけています。
現象としての面白さもさることながら、基礎科学としての新規性・有機分子による貯蔵材料への指針など面白い論文と思います。
- 関連リンク
高周期典型元素多重結合化合物の化学の新展開 (TCIメール・PDF)