A Nonmetal Catalyst for Molecular Hydrogen Activation with Comparable Catalytic Hydrogenation Capability to Noble Metal Catalyst
Li, B.; Xu, Z. J. Am. Chem. Soc. 2009, ASAP. DOI: 10.1021/ja9061097
中国のグループから、驚くべき報告が出てきました。
サッカーボール型分子として知られるフラーレンC60が、UV照射下に水素化触媒として働く、という報告です。
スキームだけ見ると一見して「ホントかよ?」みたいな報告です。
しかしフラーレン分子自体がレドックス活性を持つことはよく知られていますし、以前紹介した水素化ナトリウムが基質を酸化するという報告に比べれば、まるでもって不可解、と言うほどでも無いように感じられます。
昨今、不純物が触媒するいろんな例が取り沙汰されているだけに、真っ先にコンタミ物質の存在が疑われます。(その辺の事情は、「鉄の仮面の下に」 (有機化学美術館・分館)に詳しいです}
やはりAuthor達もそこは気になったようで、誘導結合プラズマ(inductively coupled plasma: ICP) を用いて、痕跡量金属元素の検出を試みています。
果たして彼らのC60サンプルからは、Co,Cr,Cu,Fe,Agが少量検出されたそうです。しかし、いずれの金属を用いた対照実験においても、望みの変換は起こらなかったようです。 こういったことをきっちりチェックしている姿勢は評価できると思えます。
論文では光照射を行わない条件でも最適化を行っています。「C60とアニオン状C60–が2:1の比率で存在するときに最も触媒効率が上がるものの、120-160℃、4-5MPaの水素圧という過酷な条件が必要」と言うことが述べられていました。
しかし長々と書いてあるこの最適化データは、メインにアピールすべき光照射反応への議論に、直接的に結びつき難いようにも感じられます。もちろん基礎的知見としてはこういったデータは重要なのでしょうが、速報時点でこのデータを示すことにどれほどの価値があるのか、個人的にやや不明です。何としてもJACSに載せたかったのかも知れませ
んが、実験データの作り方や論文のストーリー立てはもう少し工夫することができたのでは?とも思えました。
「パラジウム・白金など高価な貴金属触媒に取って代わるかも」と考えてしまいそうですが、フラーレン自体が現状そこまで安価ではないので、こういってしまうのはちょっと先走りすぎでしょうかね。
ともあれ現象としては面白いですし、詳しいメカニズムを調べてより簡単な系で実現されるようになっていけば、その辺りは全然問題にならないようにも思えます。
月並みな締めくくりですが、「今後に期待」ですかね。
関連書籍
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関連リンク
- フラーレンと超分子(有機化学美術館)
- フラーレン – Wikipedia