日々のアメリカで研究生活を営んでいると、人々の考え方の違いなんかがクリアに感じられます。今回は、その辺を寓話的にまとめてみました。
“お話”にすべく、一面を意図的に誇張していますし、やや偏見も混じった見方だとは思います。
とはいえ、アプローチ方針の立て方とか、ものの見方については、分野を問わず大まかにこんな感じなのでは、と思えます。勿論どっちが良い悪い、ということは抜きにして。
読者の皆さんの感覚・見解はいかがでしょうか。
【とある日】
米国人研究者(以下”米”) 「みんな聞いてくれ!いつものようにそこらを寄り道してたら、こーんな綺麗な山があるのを見つけたんだ!」
米 「お、ホントだ。きっと頂上からの眺めは最高だろうなぁ。なんてったって山周りの地形はこんなだし。頂上からの風景写真でも撮れれば、世界中の人が喜んで買うのは間違いない。いずれは観光産業で大金持ちだな。ぜひとも頂上一番乗りを目指そうぜ!」
米 「おおオマエの言うとおりだ!よし政府に掛け合って金取ってくるぜ!オレにはそんなのお手の物さ!」
米 「よし、オレは宣伝部隊を組んで、皆にいかに凄いかところか知らせてくるぜ! とはいえ登り方を考えるのはオレの専門じゃない。それはお前らにまかせたぞ」
日本人研究者(以下”日”) 「ほほう。確かにやつらの言うとおりだふむふむ。どうだいこの話は」
日 「どうやら徒歩で頂上に向かうしかないようだな・・・今のところ他に方法もないし、時間はかかるが仕方ない、そういうものだ」
日 「じゃぁみんなで力を合わせて、頂上目指して頑張ろう。アメリカなんかに負けてられるか。さあ歩こう」
日 「あまり注目されてないとこなので、遠征資金を取ってくるのは難しい。物資不足は持ち前の精神力でカバーするしかないな」
日 「そんなとこを大げさに宣伝しても、みっともないと思われてしまうだけだ。宣伝は頂上到達の後からでも十分だろ。」
【1年後】
日 「やった!5合目に到達だ!周りはどこも付いて来れてない。俺たちホント頑張ってるよな!これも団結力と日々の努力の勝利さ!」
米 「うーんまだ3合目だ。あいつらもうあんなとこまで行ってるよ。土日も休まずなんてとても歩けないぜ・・・加えてうちのメンバーは気が散りやすくて、寄り道する奴らばっかだし・・・あれぐらい忍耐強くて文句も言わず実直な奴らが、うちにも何人か欲しいもんだ・・・日本人はスゲーな全く」
米 「でもあいつら英語出来ないし、はっきりしないし、大人しくて日本の奴らとしか喋らないから、チームに居ても話が通じないんだよなぁ」
米 「ともかく俺たちは、違う方法考えないとダメかもなぁ」
【1年後】
米 「ふもとにある開発チームが全く新しい機械を作ったぞ!その名も”ヘリコプター”だ! 一回飛ばすのにムチャクチャお金かかるし、10回に9回は飛ばないけど、上手く動けば一挙に頂上だ!どうだいコレは?」
日 「マジで?確かにあれは凄いな。でも高いし、とても使いにくそう。日本チームのメンバーは、あんなひどい機械に乗るの嫌がりそうだ。導入は見送りだなぁ。歩きでもあと3合ほどだし、何とかなるでしょ。」
【1年後】
米 「よっしゃ、10回に3回はヘリコプターが飛ぶようになった!これで頂上目指すの真剣に考えようぜ!金なんていくらでもあとから取り返せるさ!」
日 「う、ちょっとだけ魅力的になったかな。でもあんな使いづらい機械、よく使ってるよなぁあいつら。でも、日本の支援チームも頑張ってて、最近すげー歩きやすい靴が支給されたんだ。全然足が痛くならないよ。毎日の山歩きも、とても快適さ。負担は大分減ったから、このまま行こう。あとちょっとだ」
【1年後】
米 「やった!頂上に一番乗りだ!途中何回か墜落して大変なことになったけど、そんなリスクは織り込み済みだし、ともあれ成功だ! ヘリ万歳!」
米 「アメリカ国旗だって勿論立てちゃうぜ? 専用の写真スタジオも建てよう。綺麗な写真を世界中に売って、これで大金持ちだ!もう少ししたら、観光ガイドでも始めるかな」
日 「ヤラレタ・・・とにもかくにも、ヘリコプターが使いづらいのがいけないんだよ。良い機械だとは思うけど、墜落しそうな気がして、皆が使うのすげー嫌がるんだよなぁ」
日 「よし、我々はヘリコプターを改良しよう! その方が、きっとこれからやってくる観光客にとっても役に立つはずだ!」
日 「アメリカの奴らってホント大雑把だし、結局自分たちのことしか考えてないんだからなぁ全く」
【1年後】
日 「やった!墜落しないヘリコプターができた!中もクッション仕様でとても快適だ。何時間乗ってても疲れない。これで観光客は大喜びだ! 土日も頑張った甲斐があったよなぁ・・・ホント俺たち良くやったよ」
米 「うーんあそこまで繊細なものは、オレらには作れないぜ・・・確かに実際使ってみるとメチャクチャ快適だ。コストも安いし、日本産のヘリコプターを使うほうがずっといいんじゃないのか?」
米 「仕方ない、この観光地ではそうすることにしよう。ともあれ写真販売と観光ガイドはオレらの独占状態だし、まぁそれぐらいいいだろ」
【その後】
米 「そういやあの山、今は日本のヘリでいっぱいになって、観光地としてはメチャクチャ便利になったよな。おかげでオレらも楽しいし、大満足だ。兎にも角にも、ヘリコプターを考え出した人たち様々だよな!」
米 「おーい、こっちにも凄そうな山があるようだぞ」
米 「何? そっちのほうが面白そうだ!」
日 「まだまだ改善する余地はあるけど、あの山は観光地としては、本当に便利になったよな。やっぱ日本の技術は世界一だ。アメリカ産のヘリなんて、今や影も形もない。あんなの、道楽者だけが乗ってる趣味機械さ。良いものを実直に作り続ける姿勢こそが、最後には勝利をものにするのさ」
日 「そういや、アメリカがまた新しい山を見つけたって知ってる?」
日 「ほうどれどれ・・・ふむふむ、前の数倍高い山だが、これまたなかなか魅力的なところだ。よし、今度は日本産のヘリがある。何とかなるだろ」
日 「・・・しかし一つ問題がある。快適なのは良いが、ヘリポートにそれ専用の固定具がないと使えないんだよな、あれは・・・」