IREMC(International Center of Research & Education for Molecular Complex Chemistry)による「教育を目的とした結晶学関連ソフトウェアの開発」プロジェクトとして一般公開された「Yadokari-XG 2009」プログラムの紹介です
化合物の同定及び性質の解明に有効な方法の一つとして、X線結晶構造解析があります。
各大学・研究機関・研究室によって環境は異なると思いますが、学生自ら測定・解析を行う所もあれば、全て専任の担当者にお任せするところもあると思います。
筆者は、博士課程の時に初めて装置の立ち上げから教わり、結晶の選別・マウント、測定条件の設定や解析及び理論等を多少なりとも学ぶ機会がありました。
ところが現在所属する研究室は、大学に属する専門の技術者に全てを任せるスタイルで、X線の測定・解析に実験時間を割く必要が無い反面、解析データの信頼度や責任が中途半端に感じてしまうこともあります。
そこでデータの再確認(時にはデータの質の向上)を目的に、毎回、自分でも解析を行うことにしています。その時に利用しているのが、「Yadokari XG」です。
既にご存知の方も居ると思いますが、Yadokari-XGとは「有機化学屋が作ったX線結晶構造解析ソフト」で、「有機化学者の,有機化学者による,有機化学者のための」 X線結晶構造解析&Gaussian Output閲覧用のソフトです。
このソフト自体は以前から広く認知されていたと思いますが、去る7月に、東北大学主導のIREMC(International Center of Research & Education for Molecular Complex Chemistry)による「教育を目的とした結晶学関連ソフトウェアの開発」プロジェクトとして、「Yadokari-XG 2009」プログラムが一般公開されました。
Yadokari-XGは、SHELXL、SHELXS、PATSEE、SIR97、DIRDIF、ORTEP-III、POV-Ray の各ソフトの機能を持ち合わせており、さらにGaussianの出力ファイルから構造を表示することが出来ます(機能の詳細はコチラ)。
今回公開された、「Yadokari-XG 2009」では、以下の点が改善されています(プロジェクトHPより)。
- ほとんどの結晶関連外部ソフトウェアとのリンク可能
- 最新versionソフトウェアのインストールの簡便化
- 空間群決定プログラム (Yadokari-SG) を大幅に更新
- 原子番号付けの機能強化(Excellタイプでの変更可能)
- SHELXLの特殊機能(disorder など)への対応を強化
- 論文投稿に必要なCIFファイル作成の機能を強化
また東北大学では、上記プログラムに関する少人数実習セミナーも受け付けているようです。
プロジェクトの趣旨に「構造解析の自動化・ブラックボックス化を目的とするものではありません」と記載されてますが、少しでもX線構造解析に関心のある学生さんは、第一歩として、是非この機会に触れてみてはいかがでしょうか。そして将来的に日本の化学者全体のX線構造解析スペクトルに関する知識・理解の底上げに繋がれば、と期待してます。
恥ずかしながら、筆者が研究を始めた当初は、解析して見えた分子構造にのみ注目し、誰がどう解析を行ったのかなんて興味もありませんでした。。
しかし、各種スペクトル測定において、「どのような測定過程や理論を基に解析されているのかを知ることも、化合物や分子構造の特徴を理解する上で非常に重要である」と今では認識しています。
日本でこのようなソフトが開発され身近に利用できることは、有機化学を行う者としてとても恵まれていると感じます。今後、様々な種類のスペクトル解析ソフトがまだまだ出て来ると思いますが、利用が簡便・容易になる一方で、中身の理解にも時間を費やしたいものです。
余談ですが、製作・開発者の脇田啓二氏・秋根茂久氏はなんと当時大学院生!感心のため息しか出てきません。
外部リンク
- yadokari-XG 2009プロジェクトのホームページ