ラジカル条件にてカルボン酸を飛ばす手法(脱カルボキシル化反応)としては、Barton法が最も有名な代表格でしょう。しかしながら反応を起こすためには、チオエステルやザンテートなどといった特殊な化合物へ予め変換しなくてはならず、やや面倒な感がぬぐえません。
このたび福井大学工学部の吉見・畠中らによって、新規な脱カルボキシル化反応が報告されました。本条件の最大の特徴は、無保護のカルボン酸を直接飛ばせるというものです。加えて光照射・中性・室温という、大変穏和な条件下に行えます。
一体全体どこから見つけてきたのか?と思えるコンビネーションなのですが、メカニズムは実になかなか興味深いものがあります。まず光励起されたフェナンスレン分子が、電子受容体であるジシアノベンゼンへと電子を受け渡し、フェナンスレンカチオンラジカルが生じます。カルボキシレートアニオンがこれによって一電子酸化され、引き続き脱炭酸をへて炭素ラジカルが生じます。
2007年のfirst report[1]では、カルボン酸を飛ばして水素に変換する反応、すなわち脱炭酸型還元反応が報告されています。この場合には、ドデカンチオールを水素供与体として加えることで、下記のごとくユニークな変換例・化学選択性が実証されています。
ごく最近の報告[2]においては、炭素伸張法への応用展開が記されています。ペプチドの炭素鎖伸張、マクロラクトン合成など、いずれも普通ではちょっと考えにくい変換が可能になっていることがおわかりでしょう。
福井という北国の地にも、良い仕事をされてる方はいるものですね。日本の有機合成化学の底力を見た気がします。とてもユニークな研究だと思うので、今後の展開にも注目したいですね。
関連論文
- Yoshimi, Y.; Itou, T.; Hatanaka, M. Chem. Commun. 2007, 5244. DOI: 10.1039/b714526h
- Yoshimi, Y.; Masuda, M.; Mizunashi, T.; Nishikawa, K.; Maeda, K.; Koshida, N.; Itou, T.; Morita, T.; Hatanaka, M. Org. Lett. 2009, 11, 4652. doi:10.1021/ol9019277