[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

完熟バナナはブラックライトで青く光る

[スポンサーリンク]

 

筆者自身この事実に驚いたので、今回はその話をとりあげます(画像:ChemistryWorldより改変)。

何はともあれ、上記写真をご覧ください。バナナにブラックライト=紫外線(UV)を当てて撮影した写真です。

いずれも青く光っている(青色蛍光を発している)のですが、黄色のバナナほど明るく、緑色のバナナほど暗く光っていることがおわかりでしょう。この現象はバナナの熟成度と相関があるようなのです。

オーストリア・Innsubruck大学のKrautlerらは、こういった現象がどのように起こっているのかを解明することに成功しました[1]。


結論から言えば、バナナに含まれているクロロフィル色素が分解して生じる化合物(FCC)が原因なのだそうです。

FCCは蛍光性クロロフィル異化生成物(Fluorecesnt Chlorophyll Catebolite)の略称です。緑色色素であるクロロフィルは時間が経つにつれ分解し、FCCに変化していきます。バナナの場合はMc-FCC-53という化合物となり、これがUV照射によって青い蛍光を発します。

banana_UV_2.gif

しかし過渡的な分解物でしかないFCCは存在時間が短く、肉眼で見える蛍光を発するほどに濃度が高く存在しないものだそうです。そのためクロロフィルがあって分解していけば青く光るのか、というと必ずしもそうではないようです。
バナナの場合はこの辺り特別で、生体内でFCCが化学修飾を受けて化学的安定度が増し、濃度が高まっているのだそうです。このため、熟成したバナナは青く光ることができるのです。

ちなみに熟成バナナの黄色は、カロテノイドという化合物に起因しています。時間が経てばクロロフィルが分解して緑色が弱まり、カロテノイドの黄色が相対的に強く見えてくる、という理屈です。つまりはこちらもクロロフィルが絡んでいるのですね。

さて、バナナは古くなると茶色の斑点が沢山出来てきます。皆さんもそうでしょうが、一面茶色のバナナはどうにも食べる気が失せてしまうものです。古くなったバナナはどう光るのか?―― これについても、つい最近、同グループからの研究報告がなされました[2]。

古くなったバナナに紫外線をあてると、斑点周りがとりわけ明るい蛍光を発し、輪っかのように見えます。その一方で斑点部そのものの蛍光は弱いことが分かります。 論文によれば、輪っか部分にはとりわけ高い濃度でFCCが含まれる反面、中央斑点部分のFCC濃度はあまり高くないそうです。つまりは、生細胞(熟成)から細胞死(腐敗)へ向かう過渡期にこそ、FCC濃度が高くなるということでもあります。彼らはこの結果に基づき、「細胞死のマーカー化合物としてFCCが活用可能になるのではないか」と提案しています。

banana_uv_3.jpg
(画像は論文[2]より転載)

さて、以上の事実は、『フルーツを主食とする動物の中には、人間の目では見えない色を見て、鮮度を見極めているものがいるのでは?』という仮説をも新たに呈示します。

人間には検知できない波長の光を見ることのできる動物は沢山いますし、何よりこの研究結果を人間視点から眺めたとしても、『”びみょーなバナナ”でも、ブラックライトを当てるだけで食べ頃かどうかが簡単に分かる』ということでもあります。
他の動物が同じような判別の仕方をしてたとしても、なんらおかしくないですよね。

 

関連動画

関連文献

  1. Moser, S.; Muller, T.; Ebert, M.-O.; Jockusch, S.; Turro, N .J.; Krautler, B. Angew. Chem. Int. Ed. 2008, 47, 8954. doi:10.1002/anie.200803189
  2. Moser, S.; Muller, T.; Holzinger, A.; Lutc, C.; Jockusch, S.; Turro, N .J.; Krautler, B. Proc. Natl. Acad. Sci., USA 2009, 106, 15538. doi: 10.1073/pnas.0908060106

 

関連リンク

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. マテリアルズ・インフォマティクスにおける分子生成の基礎と応用
  2. 化学産業における規格の意義
  3. 粒子画像モニタリングシステム EasyViewerをデモしてみた…
  4. 可視光活性な分子内Frustrated Lewis Pairを鍵…
  5. “click”の先に
  6. タンパク質の構造ゆらぎに注目することでタンパク質と薬の結合親和性…
  7. 化学者のためのエレクトロニクス講座~電解ニッケルめっき編~
  8. 【十全化学】新卒採用情報

注目情報

ピックアップ記事

  1. 第15回日本化学連合シンポジウム「持続可能な社会構築のための見分ける化学、分ける化学」
  2. J-STAGE新デザイン評価版公開 ― フィードバックを送ろう
  3. 旭化成 繊維事業がようやく底入れ
  4. 「水素水」健康効果うたう表示は問題 国民生活センターが業者に改善求める
  5. リンドラー還元 Lindlar Reduction
  6. マテリアルズ・インフォマティクスの推進成功事例 -なぜあの企業は最短でMI推進を成功させたのか?-
  7. 留学せずに英語をマスターできるかやってみた(1年目)
  8. MIを組織内で90日以内に浸透させる3ステップ
  9. N末端選択的タンパク質修飾反応 N-Terminus Selective Protein Modification
  10. 【書籍】化学探偵Mr.キュリー3

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2009年9月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930  

注目情報

最新記事

植物由来アルカロイドライブラリーから新たな不斉有機触媒の発見

第632回のスポットライトリサーチは、千葉大学大学院医学薬学府(中分子化学研究室)博士課程後期3年の…

MEDCHEM NEWS 33-4 号「創薬人育成事業の活動報告」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

第49回ケムステVシンポ「触媒との掛け算で拡張・多様化する化学」を開催します!

第49回ケムステVシンポの会告を致します。2年前(32回)・昨年(41回)に引き続き、今年も…

【日産化学】新卒採用情報(2026卒)

―研究で未来を創る。こんな世界にしたいと理想の姿を描き、実現のために必要なものをうみだす。…

硫黄と別れてもリンカーが束縛する!曲がったπ共役分子の構築

紫外光による脱硫反応を利用することで、本来は平面であるはずのペリレンビスイミド骨格を歪ませることに成…

有機合成化学協会誌2024年11月号:英文特集号

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年11月号がオンライン公開されています。…

小型でも妥協なし!幅広い化合物をサチレーションフリーのELSDで検出

UV吸収のない化合物を精製する際、一定量でフラクションをすべて収集し、TLCで呈色試…

第48回ケムステVシンポ「ペプチド創薬のフロントランナーズ」を開催します!

いよいよ本年もあと僅かとなって参りましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。冬…

3つのラジカルを自由自在!アルケンのアリール–アルキル化反応

アルケンの位置選択的なアリール–アルキル化反応が報告された。ラジカルソーティングを用いた三種類のラジ…

【日産化学 26卒/Zoomウェビナー配信!】START your ChemiSTORY あなたの化学をさがす 研究職限定 キャリアマッチングLIVE

3日間で10領域の研究職社員がプレゼンテーション!日産化学の全研究領域を公開する、研…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP