[スポンサーリンク]

一般的な話題

ホストとゲスト?

[スポンサーリンク]

皆様はホスト-ゲストケミストリーという言葉をご存知でしょうか。

ご存知の方も多くいらっしゃるとは思いますが、筆者の勉強も兼ねて、ホスト‐ゲストケミストリーについてすこしだけ書いてみようかと思います。


ホスト‐ゲストケミストリー、非常にざっくりと言い表せば以下の様になります。

比較的弱い相互作用で、大きな分子が小さな分子を捕まえる化学』

弱い相互作用というのは水素結合、イオン結合、親水性相互作用、疎水性相互作用やもっとマニアックな相互作用など枚挙に暇がありません。

この場合の大きな分子は捕まえる方ですからホスト分子といいます。一方、捕捉される小さな分子をゲスト分子と呼びます。

 

ホスト分子の例としてシクロデキストリン(cyclodextrin)というものを挙げてみます。これはD-グルコース単位がα(1→4)グルコシド結合によって結合し、環状になった分子で、正に環状デキストリンです。以下CDと略記します。

molecule-big
グルコースは水に溶けますから、それを構成単位とするこのCDも水に溶けるということは想像に難くありません。

しかし、化学結合の妙といいましょうか、CDを構成するグルコースの酸素原子(下図での赤色の球)というのは、全てCD環の外側に向いております。

170px-Beta-cyclodextrin3D

 

すると、どうでしょうCDの環の外側は親水性、そして内側は疎水性という芸術的ともいえる構造の化合物が出来上がるのです。

これによってCDは、水環境中で比較的疎水性の分子を取込み、そして疎水性分子を水中に分散させることができるわけです。

ミソは水環境ということ。疎水性分子というのは当然水に馴染みません。しかしここへ内部が疎水性のCDを放り込みます。すると疎水性分子はCDの穴へと自発的にはまり込んでしまいます。

エネルギーダイヤグラムで考えてみます。疎水性分子と水は相性がよくありません。つまり疎水性分子が水に分散している状態というのは、エネルギー的には不安定。ここへ投げ込まれたCDは疎水性分子から見ればエネルギー井戸のように見えます。従って、CDの中へ入れば安定になれる。エネルギー的に安定になりたい疎水性分子は、喜んでCDの孔に飛び込んでいくわけですね。
indigo20090918energydiagram.GIFまたCDには構成単位の員数によって6、7、8員環のCDそれぞれα-、β-、γ-CDという風に呼びます。員数が増えれば必然的に環径も大きくなります。
CDに限りませんが環状ホスト分子というのは、環の大きさによってその環径にぴったり合うゲストを選択的に捕まえることができます。ホストとゲストの組み合わせによっては更に複雑な選択性を示すものも発見されているようです。条件に合うものを選択的に捕まえるというのは、酵素反応でいう鍵と鍵穴の関係に似ています。

このようにホスト-ゲストケミストリーは分子の形に注目する化学といえるのではないでしょうか。

 

関連書籍

[amazonjs asin=”4759809538″ locale=”JP” title=”超分子科学―ナノ材料創製に向けて”]

 

関連リンク

Avatar photo

インジゴ

投稿者の記事一覧

金沢大学の自然科学研究科で修士1年をしております。高分子研究室にいながら研究テーマは超分子です。

関連記事

  1. 周期表の形はこれでいいのか? –その 2: s ブロックの位置 …
  2. 第四回Vプレミアレクチャー「金属錯体を利用した光化学アップコンバ…
  3. 異分野交流のすゝめ
  4. 有望な若手研究者を発掘ー研究者探索サービス「JDream Exp…
  5. 2019年ケムステ人気記事ランキング
  6. 化学系学生のための就活2020
  7. アメリカで Ph.D. を取る -Visiting Weeken…
  8. (–)-Spirochensilide Aの不斉全合成

注目情報

ピックアップ記事

  1. 化学構造式描画のスタンダードを学ぼう!【基本編】
  2. 美しきガラス器具製作の世界
  3. 市販の新解熱鎮痛薬「ロキソニン」って?
  4. ビタミンB12 /vitamin B12
  5. カセロネス鉱山
  6. 有機ケイ素化合物から触媒的に発生したフィッシャーカルベン錯体を同定!医薬品に欠かせないβ-ラクタム合成を安全かつ簡便に
  7. 多検体パラレルエバポレーションを使ってみた:ビュッヒ Multivapor™
  8. チロシン選択的タンパク質修飾反応 Tyr-Selective Protein Modification
  9. 三共、第一製薬が統合へ 売上高9000億円規模
  10. すぐできる 量子化学計算ビギナーズマニュアル

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2009年9月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930  

注目情報

最新記事

2024 CAS Future Leaders Program 参加者インタビュー ~世界中の同世代の化学者たちとかけがえのない繋がりを作りたいと思いませんか?~

CAS Future Leaders プログラムとは、アメリカ化学会 (the American C…

第50回Vシンポ「生物活性分子をデザインする潜在空間分子設計」を開催します!

第50回ケムステVシンポジウムの開催告知をさせて頂きます!2020年コロナウイルスパンデミッ…

有機合成化学協会誌2024年12月号:パラジウム-ヒドロキシ基含有ホスフィン触媒・元素多様化・縮環型天然物・求電子的シアノ化・オリゴペプチド合成

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年12月号がオンライン公開されています。…

「MI×データ科学」コース ~データ科学・AI・量子技術を利用した材料研究の新潮流~

 開講期間 2025年1月8日(水)、9日(木)、15日(水)、16日(木) 計4日間申込みはこ…

余裕でドラフトに収まるビュッヒ史上最小 ロータリーエバポレーターR-80シリーズ

高性能のロータリーエバポレーターで、効率良く研究を進めたい。けれど設置スペースに限りがあり購入を諦め…

有機ホウ素化合物の「安定性」と「反応性」を両立した新しい鈴木–宮浦クロスカップリング反応の開発

第 635 回のスポットライトリサーチは、広島大学大学院・先進理工系科学研究科 博士…

植物繊維を叩いてアンモニアをつくろう ~メカノケミカル窒素固定新合成法~

Tshozoです。今回また興味深い、農業や資源問題の解決の突破口になり得る窒素固定方法がNatu…

自己実現を模索した50代のキャリア選択。「やりたいこと」が年収を上回った瞬間

50歳前後は、会社員にとってキャリアの大きな節目となります。定年までの道筋を見据えて、現職に留まるべ…

イグノーベル賞2024振り返り

ノーベル賞も発表されており、イグノーベル賞の紹介は今更かもしれませんが紹介記事を作成しました。 …

亜鉛–ヒドリド種を持つ金属–有機構造体による高温での二酸化炭素回収

亜鉛–ヒドリド部位を持つ金属–有機構造体 (metal–organic frameworks; MO…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP