M. Schappacher, A. Deffieux, Science 2008, 319, 1512. doi:10.1126/science.1153848
一般的な高分子の「形」は直線状ですが、合成技術の発達により環状や分岐状といった特殊な構造の高分子が近年次々に合成されています。顕微鏡でその形を直接観察できれば、何より強力な合成の証明になるにも関わらず、高分子主鎖がそれほど太くないために、顕微鏡での直接観察は簡単ではありませんでした。
そんな中、高分子の特殊な「形」を観察した論文が発表されたのでご紹介します(冒頭画像は冒頭論文より)。
Deffieuxらは、AFMによる環状高分子の観察を最近の一連の論文[1-4]で報告しています。
一般的に高分子主鎖はAFMでは観察できるほど太くはありません。しかし、今回は鎖状高分子を環化させた後、その側鎖に別の鎖状高分子を高密度にグラフトさせることにより、AFMで観察できるほどの太さを持った環状高分子ブラシを合成しています。例えるなら、ひもを環にした後、そのひもからたくさんの毛を生やしたような感じです
このように合成された太い環状高分子を、黒鉛上にスピンコートし、AFM観察を行ったところ、下のような写真が得られたそうです。書くだけだと簡単そうですが、基板や塗布条件などといった観察条件の最適化になんと10 年近くかかったそうです…!
ここで写真をよく見てみると、環状高分子以外にも8の字型やおたまじゃくし型の高分子がいることが分かります。
実は、直鎖状高分子を環化させる際の環化効率を上げるために、直鎖状高分子の末端に複数の反応部位が導入してあります。そのため、多分子間反応も起こってしまい、環状以外の形を持った高分子が生成してしまいます。選択的な環状高分子の合成とはいえませんが、結果として様々な面白い形が得られています。
さらに、異なった化学構造を有する線状高分子をグラフトさせた環状高分子ブラシも作成しています。この環状高分子は特定の溶媒中において、グラフトさせた線状高分子の溶解性が異なるため、チューブ状に自己組織化しました。この環状高分子チューブもAFMで観察されています。このチューブは、環状高分子をから構造体を構築するという、環状高分子研究の新展開といえ、新しい応用が期待されます。
今回は環状高分子を取り上げましたが、日ごろ何気なく使っているプラスチックだって線状高分子から構成されているわけで、分子レベルでプラスチックを見るとこういった高分子が絡み合った世界が広がっている…! ということを想像してみると面白いかもしれません。次回はより複雑な形を有する高分子を”見る”と、どのように見えるのか取り上げたいと思います。
関連文献
- M. Schappacher, A. Deffieux, Science 2008, 319, 1512. doi:10.1126/science.1153848
- M. Schappacher, A. Deffieux, J. Am. Chem. Soc. 2008, 130, 14684. doi:10.1021/ja804780s
- Deffeux, A.; Schappacher, M.; Hirao, A.; Watanabe, T. J. Am. Chem. Soc. 2008, 130, 5670-5672. doi: 10.1021/ja800881k
- Schappacher, M.; Def?eux, A. Angew. Chem. Int. Ed. 2009, 48, 5930. doi:10.1002/anie.200900704