既にいくつか記事がアップされているリンダウ・ノーベル賞受賞者会議(Lindau Nobel Laureate Meeting)、筆者もその参加者の一人でした。
受賞者から、講演やメディアのインタビューでは聞けない情報を得ることができる一生に一度のチャンスでした。しかし、23人の受賞者に対して約580名の若手研究者が参加しているので、受賞者と直接コンタクトをとる為の競争率はかなり高く、タイミングやアグレッシブさを欠いていては全く話すことができません。その為、大抵の若手研究者は、予め質問したいことや話題を十分準備した状態でディスカッションに臨みます(ディスカッションの様子はこちら)。他では見られない魂の込められた若手研究者と受賞者の1問1答、その中から特に筆者の印象に残っていたものをピックアップしてご紹介します。科学者として、今後研究を行う上でためになると思われる貴重な受賞者の言葉の数々を頂くことができました。
今回は、基礎的な内容から4つ。
Richard R. Ernst(1991年受賞)
Q. 研究者として、一番上手な時間の使い方とは?
Ernst「人により様々なスタイルがあってよい。5日間120%働いて2日間全く仕事をしない方法でもいいし、毎日80%の仕事量でコンスタントにこなす方法でも構わない。大事なのは、本人が研究に対してモチベーションをずっと維持できるスタイルであるべきだということだ」
目から鱗でした。日本に居たころは全力投球を学び、渡米してからは緩急・メリハリのある時間の使い方を学びましたが、本質的に重要なのは、研究意欲を高い状態で維持できるスタイルであるべきってわけなんですね。言われてみればごもっともです。
Q. 今後科学者として生き残る為には、どのような研究テーマを選択するべきか?
Ernst「世の中にはまだまだたくさん未知で魅力的なものがあるが、最終的には、どの様なテーマを選んでも構わない。何を選んだかではなく、その選んだテーマに対してどれだけ真剣に向き合うか(合ったか)が重要なのだ」
初めて実験をスタートする時、おそらく学生さんの大半は、与えられたテーマに取り掛かることになると思いますが、結果が出やすい出にくいに不公平さを感じることもあるかと存じます。しかしそこにこだわり時間を浪費するよりも、(芋だろうが高級な肉だろうが)目の前の素材をどう調理し楽しみながら創造的なものを導けるか、に集中することが最終的な結果に結びつくのかもしれません。ちなみにErnstは「これは結婚と同じだよ。誰を選んだかよりも、その相手とどれだけ真剣に向き合い、楽しく過ごそうとしたかで人生は変わる」と言っておられました。うむ。
Roger Y. Tsien(2008年受賞)
Q. 研究テーマは、時代の流れを見て研究費の取り易さで選ぶべきなのか?
Tsien「自分自身が楽しめるものをピックアップするべきだ。ただしこの時重要なのは、何が・どう・面白いのかを誰もが納得できるように完璧に説明できなくてはいけない」
創造されたものの質を考慮すると、クリエィティブな職は嫌々やるべきではないということはみなさん承知だと思いますが、特に科学者の場合は、個人の好奇心が世間の興味関心と重なることが重要なようです。と言うよりも、もともと社会が関心を持っていないことでも、十分説明することで興味を共有できるトピックの中にこそ、人類の知的財産に繋がる可能性が秘められている、と感じ取ることが出来ます。
Q. 実験が全然うまく行かない時、どうするべきか?
Tsien「もしその問題が、クリアすれば大きな飛躍になるであろう難問であればあるほど、科学者として大きなチャンスであり、じっくり取り組むべきだ。それ以外の問題なら速やかに他へと移るべきである」
ぶつかっている問題の重要性をどれだけ把握できているか、は研究者にとって非常に重要のようです。粘るべきか距離を置くべき問題なのかを見極める力があるだけで、時間的・効率的にも成果にも大きな差が出ると思います。そういう力を磨くには意識しながら経験を積むしかないと思いますが、時折、天才的というか野生的勘の鋭い研究者も居たりしますね。そのような人と一緒に研究できると、何かコツをつかめるかもしれません。
一見素朴な若手研究者の質問ですが、予想していたより奥の深い答えが返ってきたと感じました。こういうことを常日頃から考えて研究に携わっていると、1年後3年後10年後には、大きな差となって表れてくる気がしますがいかがでしょうか。次回に続きます。