夏も近づき暑くなるにつれて、毎年のように「地球温暖化の影響」があちこちで囁かれるようになりました。実際に日本沿岸では海水面が毎年3.3 mmずつ上昇しているそうです(Wikipedia「地球温暖化」参照)。
地球温暖化の主な原因は「温室効果ガス(greenhouse gas)」であるとされており、特にメタン(CH4)や二酸化炭素(CO2)の排出量が大きく影響することが示されています。これらの気体分子は大気中で非常に安定であり、反応性が限られる(分解されにくい)ことが問題を大きくしていると言われています。
以前「つぶやき」では、NHC(N-ヘテロサイクリックカルベン)を有機分子触媒として用いると、CO2を活性化できるという報告を紹介しました(「つぶやき」での紹介記事はこちら)。すなわち簡単な有機分子を用いることでCO2を無害な(むしろ有用な)メタノールへと変換する、というコンセプトでした。
さらに最近、この研究に関連して、地球温暖化に待ったをかける(と言ってしまうのは大袈裟かもしれませんが)、画期的な研究成果が J. Am. Chem. Soc. 誌及びAngew. Chem. Int. Ed. 誌に報告されたので紹介します。
Complexation of Nitrous Oxide by Frustrated Lewis Pairs
Otten, E.; Neu, R. C.; Stephan, D. W.
J. Am. Chem. Soc. 2009, ASAP. doi:10.1021/ja904377v
Reversible Metal-Free Carbon Dioxide Binding by Frustrated Lewis Pairs
Momming, C. M.; Otten, E.; Kehr, G.; Frohlich, R.; Grimme, S.; Stephan,D. W.; Erker, G.
Angew. Chem. Int. Ed. 2009, Early View. doi:10.1002/anie.200901636
いずれの研究もカナダのトロント大学のStephan, D. W. 教授らのグループが中心になっています。Stephan教授は「Frustrated Lewis Pairs(以下FLPs)」に関する化学の第一人者です。
Lewis Pairsとは、つまりルイス酸とルイス塩基の両方の機能を併せ持つ分子のこと。配位子としての利用や触媒能について精力的な研究がなされてきました。その結果、ルイス酸-塩基中心が同時に二つの反応基質を活性化して、触媒能を示すことも明らかとなっていました。しかしながら、これらの化合物を触媒として働かせるためには、ルイス酸とルイス塩基部位同士が相互作用してしまう、いわゆるクエンチ反応を防ぐことが課題でした。
Stephan教授は、「 B(ボラン)及び P(ホスフィン)」を組み合わせた「Lewis Pairs」に着目していました。さらに前述の問題を解決するために「嵩高い置換基を導入」して、ボラン-ホスフィン間での配位を防ぎました。このようにして「Frustrate」されたFLPsは、なんと水素分子をもヘテロリティックに解裂させることができます(下図参照)。
Reversible Metal-Free Hydrogen Activation
Welch, G. C.; Juan, R. R. S.; Masuda, J. D.; Stephan, D. W.
Sience 2006, 314, 1124. doi:10.1126/science.1134230
研究においては、どのようなコンセプトを持って進めていくかという姿勢が重要であると思います。それは論文発表でも口頭発表でも、まず最初に目に(耳に)する「Introduction」に凝縮されています。賛否両論あるとは思いますが、駆け出しの研究者である筆者にとっては少々大袈裟なイントロのほうがおもしろいと感じることも少なくありません。今回紹介した論文がそうであるように、「こんなにも夢のある化合物ですよ」という前置きがあると取っ付きやすいのは間違い有りません。
それらを踏まえて今回のブログの記事のタイトルを決めましたが、いかがでしょうか?
大袈裟なタイトルに引き付けられた人が多少なりともいてもらえれば幸いです。
- 関連論文
[1] Rokob, T. A.; Hamza, A.; Papai, I. J. Am Chem. Soc. 2009, ASAP. doi:10.1021/ja903878z - 関連リンク
Stephan Research Group(トロント大学 ステファン研究室HP)