Selective Synthesis of [12]Cyccloparaphenylene
Takaba, H.; Omachi, H.; Yamamoto, Y.; Itami, K. Angew. Chem. Int. Ed., 2009, early view.
DOI: 10.1002/anie.200902617
名古屋大学の伊丹健一郎教授のグループから報告された論文です。
カーボンナノチューブの部分構造であるシクロパラフェニレン(ベンゼン環をパラ位で環状につなげたもの)の選択的な合成が達成されたという内容です。
シクロパラフェニレン(CPP)は非常にシンプルな構造を持っておりますが、その合成は近年まで困難とされてきました。その大きな要因の一つがベンゼン環を環化させる際に生じる歪みエネルギーで、環が12個の場合、55 kcal/molもの歪みが生じるのだそうです。
今回の報告では、その歪みエネルギーをシクロヘキサン環を用いることで解消するという戦略を用いております。すなわち、シクロヘキサンユニットを組み込んだ環状化合物を先に合成しておき、最後に芳香族化を行うというものであります。
CPPの合成は、2008年の終わりにケミカルバイオロジー研究で著名な米国のベルトッツィ教授のグループからも報告されております (J. Am .Chem. Soc., 2008, 130, 17646.)。
ここから推測するに、世界中で少なくとも 2 groupは同時期にCPPの合成研究を進めていたことになります。相変わらず、怖い世界です。。。
ちなみに、この伊丹先生の研究は時事通信などでもニュースとして取り上げられており非常にインパクトのある仕事だったのではないかと思います。研究室レベルで行われている基礎科学研究が新聞やインターネットの速報という形で取り上げられることは非常に喜ばしいことだと思います。化学者だけでなく、より多くの方々に知ってもらえるなら研究者冥利に尽きるというものです
このような研究を見ると、筆者のような無責任な人間はカーボンナノチューブの全合成に期待を膨らませるばかりであります。ぜひぜひ、頑張ってください!!
【追記 2017. 1.14 webmaster】
この後の、カーボンナノリング合成の発展は目覚ましいものがあります。全く異なる合成法で合成されたり、様々なサイズや形のリングが登場、テンプレートとしてはうまく働いていないかもしれないですが、「ナノリング」から「ナノチューブ」への変換も達成されています。詳しくは多くの総説がでていますので以下を参照してください。
- Omachi, H.; Segawa, Y.; Itami, K. Acc. Chem. Res. 2012, 45, 1378. DOI; 10.1021/ar300055x
- Yamago, S.; Kayahara, E.; Iwamoto, T. Chem. Rec. 2014, 14, 84. DOI: 10.1002/tcr.201300035
- Darzi, E. R.; Jasti, R. Chem. Soc. Rev. 2015, 44, 6401. DOI: 10.1039/C5CS00143A
- Segawa, Y.; Yagi, A.; Matsui, K.; Itami, K. Angew. Chem., Int. Ed. 2016, 55, 5136. DOI:
関連論文
Synthesis, characterization, and theory of [9]-, [12]-, and [18]cycloparaphenylene: carbon nanohoop structures. Jasti, R.; Bhattacharjee, J.; Neaton, JB.: Bertozzi. CR J. Am. Chem. Soc. 2008, 130, 17646. DOI: 10.1021/ja807126u
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