アメリカ化学会誌(Journal of American Chemical Society; JACS)のウェブサイトをチェックしてない化学系研究者はいないと思います。そこに最近、“JACSβ”のリンクが張られたのは御存じでしょうか?JACS誌上の化学研究をアピールするとともに、研究者間コミュニケーションを促すようなウェブベース手法を模索するコーナーのようです。
さまざまな境界分野と融合が進む化学領域では、異分野間コミュニケーションが重要視される一方です。ウェブ技術がその強力なツールになる、という事実はもはや周知ですし、ケムステでも長く注目してきた点です。
化学系最高峰ジャーナルのJACSは、こういった流れの中、どういった試みをしているのでしょうか?
1. 化学者へのインタビュー:2008年6月7日現在、合成化学の大御所William Roushのインタビューが視聴できます。数日前には無かったコーナーなので、公開されたばかりなのでしょう。論文上では生の意見は分からないので、そういったものを聞けるようになれば、情報価値の高いコーナーになるでしょう。新たなアピールの場として見れば、研究者視点からも興味深いと思えます。ただ、もうちょっと音質をあげて欲しいかな(笑)。
2. JACS Virtual issue:最近の傑出JACS論文を、特定のトピックに沿ってまとめたリンク集です。第一号はTotal Synthesis特集のようです。ACSのジャーナルにはAuthorChoiceといって、論文著者がお金を払って、自らの論文をダウンロードフリー公開できる仕組みが導入されています。読者の集まる論文でないとメリットが少ないため、AuthorChoiceのものは優れた論文が多くなっています。そのような他システムとの融合が進めば、優れた論文へ誰もが簡便にアクセスできる方法の一つとなり、上手く発展していくように思えます。
3. JACS PowerPoint Slide Sets:論文と関連したPowerPointファイルを提供する試みのようです。新たな知見についてのディスカッションを促す目的があるとのことですが、率直に言ってどう発展していくのか想像が難しく、今ひとつ価値が見えにくい印象です。今後、充実してくれば、また評価が変わってくるかも知れません。
4. Listen to JACS Communications:JACSコミュニケーション論文のテキストを音声ファイルで聞くことができます。ポッドキャストでの配信も視野に入れているようです。盲人研究者向けなのか、単に「こんなことができますよ」的な一案として提示してるだけなのか判断できませんが、どうも後者のような気がします。朗読スピードが適切なので、英語が苦手な日本人研究者のリスニング教材として使える・・・かもしれませんね。
ほかにもいくつか案があるようですが、どれも始まったばかりの試みのようです。コンテンツの質・量ともに充実させるのは今後の課題といえます。最高峰のジャーナルですらこういう現状ですから、Webベースのアピールに関して、化学領域の意識は相当に立ち後れているなぁと思えてなりません。
Chem-Stationでも、独自に化学とWebの融合領域に取り組んでいきたいと考えています。ここをもっと充実させて欲しいな、こんなコーナーがあったらいいな、などなど皆さんから広く忌憚のないご意見をお待ちしています。
関連リンク
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