さて2007年度ノーベル化学賞を予想!(1)に続きまして、今年のノーベル化学賞の最終候補者・残りの3組を紹介しましょう!
George M. Whitesides, J. Fraser Stoddart, Seiji Shinkai, Julius Rebek, Jr (超分子、自己組織化)
ハーバード大教授のホワイトサイズ教授は、分子自己集合に関する先駆的研究で非常に有名な方です。九州大学の新海教授らとともにノーベル化学賞に最も近い研究者としてあげられています(トムソンISI・2005年度ノーベル化学賞候補者)。もちろん他の最高クラスの名誉賞(アーサー・コープ賞、米化学会賞、ウェルチ化学賞etc)は既に受賞しており、最近ではアメリカ化学会最高の賞・プリーストリーメダルを受賞しています。代表的な研究は多数ありますが、有機チオールと金などのナノ粒子を用いた自己組織化単分子膜(Self‐Assembled Monolayer: SAM)やミクロ接触印刷法(極微のスタンプを用いて単分子膜(SAM)のパターンを作り、これを基板上に転写する)[1]が特に有名です。
SAM(Self‐Assembled Monolayer)
九州大学の新海教授は、1979年に世界に先駆けてクラウンエーテルとアゾベンゼンからなる「分子機械」を開発しました。すなわち、化合物の光によるシス-トランス異性化反応を利用し、分子スイッチとしての応用を示唆しました[2]。その後カリックスアレーンの機能材料化や、それによるフラーレンの画期的新精製法の開発も行いました。その他にもボロン酸の化学修飾により、世界唯一の実用的人工糖センサーの開発、無機物質へのキラリティ転写など、多様な分野で多くの業績をあげています。
また、UCLAのストッダート教授、スクリプス研究所のレベック教授も分子認識/分子機械の分野では第一人者です。
よく、これらの研究は実用的でなくお遊びに近いと言われたりしますが、研究者がすべて実用的なものを考えていたら、基礎研究はまったく進みません。もちろん実用化までこぎつけることができたら、素晴らしい研究者でありエンジニアであると思いますが、なかなかそううまくはいきません。sしかし、これらの基礎研究を発展させた実用化事例は実際には多くあり、彼らの数年以内のノーベル賞は間違いないと考えられています。
[1] a) Xia Y. N; Whitesides G.M Angew. Chem. Int. Ed. 1998, 37, 551. b) Aizenberg, J; Black, A. J.; Whitesides, G. M.: Nature 1998, 394, 868. [2] Shinkai, s.; Ogawa, T.; Nakaji, T.; Kusano, Y.; Manabe, 0. Tetrahedron Lett. 1979, 4569.
関連リンク
Sumio Iijima, Morinobu Endo (カーボンナノチューブ)
日本発の材料であるカーボンナノチューブ。この発見・合成には名城大教授 飯島澄男[1]と信州大教授 遠藤守信[2]が中心的な存在となっています。これによりノーベル候補者として毎年両氏の名前が挙がっています。
最近では、飯島教授はナノホーン[3]、遠藤教授はナノペーパー[4]と、カーボンナノチューブから発展させた材料開発も非常に精力的に行っています。フラーレンを発見したハロルド・クロトー、リチャード・スモーリー、ロバート・カールが1996年に既にノーベル化学賞を受賞していますが、カーボンナノチューブが一般的にフラーレンと似たようなものと考えられているがゆえ、受賞はなかなか難しいのでは?・・・そういう声もあがっています。しかし、フラーレンに比べて材料としてのポテンシャルは大きく、多くの実用化も期待されています。
カーボンナノチューブ(左)とカーボンナノホーン(右)
[1] a)Iijima S. Nature 1991, 354, 56..;b) Ijima S.; Ichihashi T.; Nature 1993, 363, 603. [2] Oberlin A; Endo M; Koyama T., J Cryst Growth, 1976, 32, 335. [3] Umeda, K., Tanaka, A., Yudasaka, M., Iijima, S., Proc. Annual Conf. of JAST, 207 (2002-5). [4] Endo, M.; Muramatsu H, et al.Nature 2005, 433, 476.
関連リンク
Tobin J. Marks, Walter Kaminsky, Maurice S. Brookhart (高分子触媒)
チーグラー・ナッタ触媒普及後の、次世代高分子重合触媒の先駆的開発者達です。
工業的な高分子の合成に長い間活躍してきたチーグラー・ナッタ触媒やフィリップス触媒は、マルチサイト触媒(触媒の中に多くの活性点構造を含むもの)でした。1980年にハンブルグ大のカミンスキー教授は二塩化ジルコノセンとメチルアルミノキサンを組み合わせたメタロセン触媒というものを開発しました[1]。これは均一系のオレフィン重合触媒、すなわちシングルサイト-オレフィン重合触媒と呼ばれ、マルチサイト触媒に比べて活性点構造が均一であるという特徴から、狙った構造のポリマーを作ることができる重合触媒として注目されました。
ノースカロライナ大のマークス教授もこのシングルサイト触媒の第一人者で、いかにしてシングルサイト触媒が働くか、すなわちその作用機構の解明につながる重要な研究を行っています。
また、同じくノースカロライナ大のブルックハート教授はジルコニウムやチタンなどの前周期遷移金属でなく、ニッケル・パラジウムなどの後周期遷移金属触媒を用いて研究を行いました。それまで後周期遷移金属触媒では低分子量のポリマーしかできなかったのですが、1995年、α-ジイミン配位子として用いることで、後周期遷移金属触媒でもエチレンやα-オレフィンの高分子量重合体が得られることを初めて示しました[2]。
彼らの触媒研究を発展させて工業化された高分子材料は多くあります。チーグラー・ナッタ触媒を超える触媒の合成・研究を行った3人は、近くノーベル化学賞獲得が期待されています。
[1] Sinn, H; Kaminsky, W; Vollmer, H.-J.; Woldt, E , Angew. Chem. Int. Ed. 1980, 19, 390. [2] Johnson, L.K.;Killian, C. K.;Brookhart M.S, J. Am. Chem. Soc. 1995, 117, 6414.
さて続いては、【ノーベル化学賞が取れそうで取れない、だけど取れるかもしれない化学者】へ!
関連リンク
- Marks Group マークス教授のグループ