トムソンISIにて2007年度のノーベル化学賞が予想されており、ケムステニュースの方にもその結果を記載しました。その化学者を含めて2007年度のノーベル化学賞をケムステ独自に予想したいと思います。
予想といっても絞りすぎるとつまらないので、数回にわたって『ノーベル賞が取れそうな化学者』に始まり、未来のノーベル賞候補者に至るまでご紹介したいと思います。
【最終候補者(順不同)】
Akira Suzuki, Kohei Tamao, Jiro Tsuji, Barry M. Trost (カップリング反応、有機金属おもにパラジウムケミストリー)
一昨年グラブス教授らがオレフィンメタセシスでノーベル化学賞を受賞してしまったので、昨年は連続して同じ有機金属分野からは困難な状況でした。しかし、オレフィンメタセシスでとれるならば鈴木章(北大名誉教授)によって開発された鈴木-宮浦クロスカップリング[1]が受賞できないのは少しおかしい気がします。
また、クロスカップリング反応の元祖である、故熊田誠氏とともに熊田-玉尾カップリング[2]を開発した玉尾 皓平(京都大学名誉教授・現理化学研究所所属)、さらにトムソンでも予想されていましたが、辻-Trost反応[3]で知られるBarry Trost(スタンフォード大学教授)と、辻二郎(東工大名誉教授)は外せないところです。
いくつかの組み合わせが考えられますが、4人の一挙受賞はあり得ないので、「この分野で誰にノーベル賞をあげるべきか?」ということになるでしょう。2000年に野依良治氏が受賞した際のHenri Kagan(南パリ大学教授)のように中心的な存在であったのにもかかわらず選考からもれてしまう人もでてくるかもしれません。
[1] Miyaura, N.; Suzuki, A. J. Chem. Soc., Chem. Commun. 1979, 866. [2] Tamao, K.; Kumada, M. et al. Bull, Chem. Soc. Jpn. 1976. 49, 1958. [3] Tsuji, J. et al. Tetrahedron. Lett. 1965, 4387.
Gerald R. Crabtree, Stuart. L. Schreiber (ケミカルバイオロジー)
有機化学的手法と分子生物学的手法を組み合わせることで生命現象を分子レベルで理解しようとする、ケミカルバイオロジー(Chemical Biology)研究の先駆けの二人です。
スタンフォード大の生化学者であったクラブトリー教授と天然物有機合成化学者であったハーバード大シュライバー教授は、FK506(タクロリムス)という免疫抑制剤の作用機序において、化学サイドから解明に成功しています[1]。
最近ではクラブトリー教授は細胞に小さな分子を送り込み,より大きなシャペロン(Chaperone)蛋白質の力を借りて,脳機能を阻害する蛋白質の蓄積を防止する『トロイの木馬法』の開発[2]、シュライバー教授はコンビナトリアル的手法の探索領域を合理的に拡大しうるストラテジー、多様性指向型合成法(Diversity-Oriented Synthesis:DOS)を提唱し、本戦略に基づくライブラリ構築を進めています[3]。
米国ではほとんどの大学、研究所でケミカルバイオロジーを研究、発展させている現状であり、この分野の創始者である両氏の受賞は、時間の問題であるといわれています。
関連書籍
[1] a) J. Liu; J. D. Farmer; W. S. Lane; J. Friedman; I. Weissman; Stuart L. Schreiber, Cell 1991, 66, 807. b) S. L. Schreiber; G. Crabtree Harvey Society Lectures 1997, 89, 373. [2] J. E. Gestwicki; G. R. Crabtree; I. A. Graef, Science 2004, 306, 865. [3] S. L. Schreiber, Science 2000, 287, 1964.
関連リンク
- Trost Group Home トロスト教授のグループ
- crablab homepage クラブトリー教授のグループ
- Schreiber Group シュライバー教授のグループ