[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

金属を使わない触媒的水素化

[スポンサーリンク]

Metal-Free Catalytic Hydrogenation.
Chase, P. A.; Welch, G. C.; Jurca. T.; Stephan, D. W. Angew. Chem. Int. Ed. 2007, 46, 8050. DOI: 10.1002/anie.200702908

有機分子触媒もココまで来たか!という感のある、カナダ・Windsor大学のStephanらによる報告です。

 

水素を還元剤として使うには、分子のH-H結合を切って組み替える過程(活性化)が必須になります。それを行える試薬は、遷移金属触媒がほぼ唯一無二であり、有機分子だけで水素のH-H結合を切ることは従来不可能とされてきました。

StephanらはFrustrated Lewis Pairs概念[1]に基づき、このハードルを克服しています。すなわち、以下のような分子を用いて、H-H結合をプロトンとヒドリドに開裂させることに成功しています。この開裂は可逆的であることが実証されています。[2]

hydorgcat

ここまでくれば、水素を使った触媒的還元が行えるのでは?との考えに至るのはそれほど難しくありません。事実、イミン・ニトリル・アジリジンを基質とすればそれが可能である、というのが今回のAngewandte Chemie誌での報告になります。配位性の強い基質に関しては生成物阻害が問題となるようで、触媒回転させるためにB(C6F5)3保護という”特殊加工”を必要としています(冒頭図参照)。

本報告を契機に、より難しい活性化形式や触媒反応を進行させうる有機分子触媒の開発が進んでいくこととなるでしょう。今後大いに期待したいところです。

関連文献

[1] Welch, G .C.; Cabrera, L.; Chase, P. A.; Hllink, E.; Masujda, J. D.; Wei, P.; Stephan, D. W. Dalton Trans. 2007, 3407.
[2] (a) Welch, G. C.; San Juan, R. R.; Masuda, J. D.; Stephan, D. W. Science 2006, 314, 1124. [PubMed] (b) Stephan, D. W.; Welch, G. C. J. Am. Chem. Soc. 2007129, 1880. DOI: 10.1021/ja067961j

関連書籍

[amazonjs asin=”3527311610″ locale=”JP” title=”Handbook of Homogeneous Hydrogenation: 3 Volumes”][amazonjs asin=”3642366961″ locale=”JP” title=”Frustrated Lewis Pairs I: Uncovering and Understanding (Topics in Current Chemistry)”]

 

関連リンク

Stephan Research Group

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 化学研究ライフハック:化学検索ツールをあなたのブラウザに
  2. 大量合成も可能なシビれる1,2-ジアミン合成法
  3. 有機化学系ラボで役に立つ定番グッズ?100均から簡単DIYまで
  4. がんをスナイプするフェロセン誘導体
  5. サントリー生命科学研究者支援プログラム SunRiSE
  6. 【7月開催】第十回 マツモトファインケミカル技術セミナー   オ…
  7. アザヘテロ環をあざとく作ります
  8. 電子や分子に応答する“サンドイッチ”分子からなるナノカプセルを開…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 2つの触媒と光エネルギーで未踏の化学反応を実現: 芳香族化合物のメタ位選択的アシル化の開発に成功 !!!
  2. 実験の再現性でお困りではありませんか?
  3. 「石油化学」の新ネーミング募集!
  4. 【追悼企画】化学と生物で活躍できる化学者ーCarlos Barbas教授
  5. シガトキシン /ciguatoxin
  6. 元素ネイルワークショップー元素ネイルってなに?
  7. プリーストリーメダル・受賞者一覧
  8. Jエナジーと三菱化が鹿島製油所内に石化製品生産設備を700億円で新設
  9. 遷移金属を用いない脂肪族C-H結合のホウ素化
  10. 銀ジャケを狂わせた材料 ~タイヤからの意外な犯人~

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2007年8月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  

注目情報

最新記事

MEDCHEM NEWS 34-1 号「創薬を支える計測・検出技術の最前線」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

医薬品設計における三次元性指標(Fsp³)の再評価

近年、医薬品開発において候補分子の三次元構造が注目されてきました。特に、2009年に発表された論文「…

AI分子生成の導入と基本手法の紹介

本記事では、AIや情報技術を用いた分子生成技術の有機分子設計における有用性や代表的手法について解説し…

第53回ケムステVシンポ「化学×イノベーション -女性研究者が拓く未来-」を開催します!

第53回ケムステVシンポの会告です!今回のVシンポは、若手女性研究者のコミュニティと起業支援…

Nature誌が発表!!2025年注目の7つの技術!!

こんにちは,熊葛です.毎年この時期にはNature誌で,その年注目の7つの技術について取り上げられま…

塩野義製薬:COVID-19治療薬”Ensitrelvir”の超特急製造開発秘話

新型コロナウイルス感染症は2023年5月に5類移行となり、昨年はこれまでの生活が…

コバルト触媒による多様な低分子骨格の構築を実現 –医薬品合成などへの応用に期待–

第 642回のスポットライトリサーチは、武蔵野大学薬学部薬化学研究室・講師の 重…

ヘム鉄を配位するシステイン残基を持たないシトクロムP450!?中には21番目のアミノ酸として知られるセレノシステインへと変異されているP450も発見!

こんにちは,熊葛です.今回は,一般的なP450で保存されているヘム鉄を配位するシステイン残基に,異な…

有機化学とタンパク質工学の知恵を駆使して、カリウムイオンが細胞内で赤く煌めくようにする

第 641 回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院理学系研究科化学専攻 生…

CO2 の排出はどのように削減できるか?【その1: CO2 の排出源について】

大気中の二酸化炭素を減らす取り組みとして、二酸化炭素回収·貯留 (CCS; Carbon dioxi…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー