Total Synthesis of (+)-Fawcettimine.
Linghu, X.; Kennedy-Smith, J. J.; Toste, F. D. Angew. Chem. Int. Ed. 2007, 46, 7671. DOI:10.1002/anie.200702695
カリフォルニア大学バークレイ校のTosteらによる報告です。
フォーセチミンは複雑な縮環構造をもつアルカロイドです。全合成に向けてのポイントは、ヘミアミナール部位を切断してできる5員環・6員環・含窒素9員環の縮環骨格構築、および不斉四級炭素の立体制御です。
Tosteらは、独自に開発した金触媒を用いて、これらの問題を解決しています。金触媒は昨今非常に研究競争が激しく「有機合成のGold Rush」とよばれるまでになっていますが、Tosteはその潮流を創った先導者の一人です。
それでは詳しく見ていきましょう。
今回の合成では「Au(I)触媒によるアルキン・シリルエノールエーテル間の5-endo-dig環化」[1]を鍵反応として用い、合成を達成しています(このストラテジーは、論文[1]中で示されているLycopladinの合成とほぼ同様です)。この例にかぎらず、カチオン性Au(I)触媒は、既存の触媒系では達成し得ない数々の反応を進行させうることが、様々な研究者によって報告されています[2]。
まず、プロリン由来の有機触媒を用いた既報の反応条件[3]によって、光学活性シクロヘキセノン誘導体を10gスケールで合成しています。引き続きTBSOTfをルイス酸として用いるアレニルトリブチルスズの共役付加を行い、末端アルキンのヨウ素化を経て、シリルエノールエーテルとアルキン官能基を持つ環化前駆体を短工程で調製しています。
これをAu(I)触媒による環化条件[1]に伏すことにより、四級炭素をもつヒドリンダノン骨格をジアステレオ選択的に構築することに成功しています。その後、鈴木-宮浦クロスカップリングによって必要な炭素原子を導入しています。この段階においてはいくらかの試行錯誤があるようで、四級炭素から伸びている置換基が大きくなると、カップリングはうまくいかず、脱ヨウ素体のみが取れてくるそうです。
引き続き、オレフィンを末端アルコール(ヒドロホウ素化)→ヨウ素(Appel反応)へと変換した後、分子内置換反応を行い含窒素9員環を構築しています。以降3工程を経てフォーセチミンへと導いています。
炭素の導入・立体制御・環形成いずれをとっても、過去のHeathcockらによる合成[4]をかなり踏襲して進めている、という印象を受けました。ルートのオリジナリティ面では今ひとつ、でしょうか。オリジナルな方法論をアピールしたいのであれば、逆合成自体その方法が無いと考えられない、ぐらいのものであって欲しいところ(勿論口で言うだけなら簡単ですけど)。
関連文献
[1] Staben, S. T.; Kennedy-Smith, J. J.; Huang, D.; Corkey, B. K.; LaLonde, R. L.; Toste, F. D. Angew. Chem. Int. Ed. 2006, 45, 5991. DOI:10.1002/anie.200602035
[2] 均一系金触媒に関する総説: (a) Gorin, D. J.; Toste, F. D. Nature 2007, 446, 395. DOI:10.1038/nature05592 (b) Hashmi, A. S. K. Chem. Rev. 2007, 107, 3180. DOI: 10.1021/cr000436x
[3] Carlone, A.; Marigo, M.; North, C.; Landa, A.; Jorgensen, K. A. Chem. Commun. 2006, 4928. DOI: 10.1039/b611366d
[4] (a) Heathcock, C. H. ; Smith, K. M.; Blumenkopf, T. A. J. Am. Chem. Soc. 1986, 108, 5022. (b) Heathcock, C. H. ; Blumenkopf, T. A.; Smith, K. M. J. Org. Chem. 1989, 54, 1548.
関連書籍
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関連リンク
The Toste Group (UC Berkeley)