ダブリンで開催された国際学会、15th Europian Sympsium on Organic Chemistry(ESOC2007)で行われた最先端の研究発表を紹介します。
前回からの続きです。
骨粗鬆症薬のプロセスルート開発
Merck社のプロセスグループによる発表です。一般口頭発表の中で頭一つ抜けてレベルが高かったのがこれでした。
カギとなっているのは、動的速度論分割によるフルオロロイシンの光学活性体の合成と、意外に合成の難しいトリフルオロメチルイミンの塩基性条件下による調製です。こまごまとした改良ではなく、基本ルートそのものにざくざくメスを入れ、短行程化・低コスト化を実現している過程はすごいの一言。
Merck合成グループの発表はこれまでにも何度か聞いたことがありますが、例外なくレベルが高く、よくこれだけ粒ぞろいの人材を獲得できるものだ、と毎度うならされるばかりです。
官能基化有機金属試薬の調製と化合物合成への応用
Prof. Paul Knochel(LMU Munchen)による発表。熱っぽい語り口が印象的でした。
LiCl添加型アート錯体試薬を用いハロゲン-金属交換[4a]・オルトメタル化反応[4b]を行うと、敏感なニトロ・ニトリル・ケトンなどを侵すこと無く、官能基化グリニャール試薬・亜鉛試薬が調製できます。芳香環・複素環化合物は医薬・有機材料いずれの分野においても重宝されますので、この技術の進歩は幅広い分野にインパクトを与えることになります。
[4a] Krasovskiy,A.; Knochel, P.Angew. Chem. Int. Ed.2004,43, 3333. DOI:10.1002/anie.200454084 [4b] example: Lin, W.; Baron, O.; Knochel, P.Org. Lett.2006,8, 5673. DOI:10.1021/ol0625536オレフィンメタセシスを用いた化学合成プロセス
この学会最大の目玉でもある、ノーベル賞化学者、Prof. Robert Grubbs (Caltech)による講演。
メタセシス反応を用いる均一度の高い油脂合成プロセス、開環メタセシス重合のPETプローブ合成への応用、四置換オレフィン合成にも使える高活性触媒[5]など最近の諸々の知見について話されていました。ちなみにこの触媒(Stewart触媒)は既に市販されてるそうです。
[5] Stewart,I.; Ung, T.; Pletnev, A. A.; Berlin, J. A.; Grubbs, R. H.; Schrodi, Y.Org. Lett.2007,9, 1589. DOI:10.1021/ol0705144求核剤担持型脱離基(NALGs)の開発
Prof. S.D.Lepore (Florida Atlantic University)による発表。
以前「つぶやき」でも取り上げましたMicrocladallene Bの合成でも使われている、Nucleophile-Assisting Leaving Group (NALGs)のコンセプト[6]について発表されていました。合成ではハロゲンのSNi型導入に使われていましたが、ポスター発表でハロゲン以外にも使えないのか?という質問をしたところ、改良した脱離基を使えばアジド(-N3)の導入も可能、とのこと。シアニド(-CN)は現在進行中とか。三級アルコールに使うのはまだ難しいようです。