[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

ピンナ酸の不斉全合成

[スポンサーリンク]

Asymmetric Total Synthesis of Pinnaic Acid
Xu, S.; Arimoto, H.; Uemura, D. Angew. Chem. Int. Ed. 2007, 46, 5746 , DOI:10.1002/anie.200701581

東北大生命化学研究科・有本博一教授による報告です。

ピンナ酸(Pinnaic Acid)はホスホリパーゼA2(Phospholipase A2)を阻害することによって抗炎症作用(anti-inflammatory)を示す海洋天然物です。アザスピロ環という大変珍しい構造を有するため、全合成化学者の興味を惹いている化合物の一つです。

 

合成上のポイントは、そのアザスピロ骨格の立体選択的構築と、近接位に連続する不斉点の制御になります。

以下ポイントとなる変換を示します。

 

pinnaic_acid2.gif

トリメチレンメタン付加環化[1]、引き続くMSH試薬を用いたBeckmann転位[2]により、9,13,14位の近接位不斉点を初期段階で構築することに成功しています。 さらなる変換の後、環化型還元的アミノ化を行い5位の不斉制御とアザスピロ骨格の構築を達成しています。

 

「不斉四置換炭素に付いたアミン、特に環状のものを作る方法は?」と聞かれて、意外にすぐには思いつかないものです(実用的な既存法はOverman転位Curtius転位Du Boisアミノ化ぐらいでしょうか?)。トリメチレンメタン部のexoオレフィンをメチレンに一炭素減炭しないといけないのが、手間の点で惜しいと思うのですが(実際に3段階必要としています。どう変換すれば良いか考えてみてください)、こういうアプローチでスピロ骨格を作るという発想はなかなか面白いと思いました。

 

関連文献

[1] Trost, B. M.; Chan, D. M. T. J. Am. Chem. Soc. 1979101, 6429.

[2] Tamura, Y.; Fujiwara, H.; Sumoto, K.; Ikeda, M.; Kita, Y. Synthesis 1973, 215.

関連リンク

東北大学大学院生命化学研究科・有本研究室

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. オペレーションはイノベーションの夢を見るか? その3+まとめ
  2. ナノ学会 第22回大会 付設展示会ケムステキャンペーン
  3. 塩基と酸でヘテロ環サイズを”調節する”
  4. 【9月開催】マイクロ波化学のQ&A付きセミナー
  5. 世界で初めて一重項分裂光反応の静水圧制御を達成
  6. 有機合成化学協会誌2024年8月号:連続フロー合成・AI創薬・環…
  7. 有機合成化学協会誌2019年11月号:英文版特集号
  8. 世界初のジアゾフリーキラル銀カルベン発生法の開発と活性化されてい…

注目情報

ピックアップ記事

  1. フローマイクロリアクターを活用した多置換アルケンの効率的な合成
  2. 有機反応を俯瞰する ーリンの化学 その 1 (Wittig 型シン脱離)ー
  3. 有機合成化学 vs. 合成生物学 ― 将来の「薬作り」を席巻するのはどっち?
  4. 神戸製鋼所が特殊合金粉末を開発 金属以外の多様な材料にも抗菌性付加
  5. 光熱変換材料を使った自己修復ポリマーの車体コーティングへの活用
  6. 元素戦略 Element Strategy
  7. 有機反応を俯瞰する ーリンの化学 その 2 (光延型置換反応)
  8. 化学物質研究機構、プロテオーム解析用超高感度カラム開発
  9. 名古屋メダル―受賞者一覧
  10. 有機合成化学協会誌2024年8月号:連続フロー合成・AI創薬・環状有機ケイ素化合物・カルボン酸α位修飾・触媒的還元的アミノ化

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2007年7月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031  

注目情報

最新記事

日本化学連合シンポジウム 「海」- 化学はどこに向かうのか –

日本化学連合では、継続性のあるシリーズ型のシンポジウムの開催を企画していくことに…

【スポットライトリサーチ】汎用金属粉を使ってアンモニアが合成できたはなし

Tshozoです。 今回はおなじみ、東京大学大学院 西林研究室からの研究成果紹介(第652回スポ…

第11回 野依フォーラム若手育成塾

野依フォーラム若手育成塾について野依フォーラム若手育成塾では、国際企業に通用するリーダー…

第12回慶應有機化学若手シンポジウム

概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大学理工学部・…

新たな有用活性天然物はどのように見つけてくるのか~新規抗真菌剤mandimycinの発見~

こんにちは!熊葛です.天然物は複雑な構造と有用な活性を有することから多くの化学者を魅了し,創薬に貢献…

創薬懇話会2025 in 大津

日時2025年6月19日(木)~6月20日(金)宿泊型セミナー会場ホテル…

理研の研究者が考える未来のバイオ技術とは?

bergです。昨今、環境問題や資源問題の関心の高まりから人工酵素や微生物を利用した化学合成やバイオテ…

水を含み湿度に応答するラメラ構造ポリマー材料の開発

第651回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院工学研究科(大内研究室)の堀池優貴 さんにお願い…

第57回有機金属若手の会 夏の学校

案内:今年度も、有機金属若手の会夏の学校を2泊3日の合宿形式で開催します。有機金…

高用量ビタミンB12がALSに治療効果を発揮する。しかし流通問題も。

2024年11月20日、エーザイ株式会社は、筋萎縮性側索硬化症用剤「ロゼバラミン…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー