[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

ジアゾメタン

[スポンサーリンク]

およそ100反応、ほとんどすべてdecompositionというネガティブデータを乗り越え、一挙に2段階進みました。言い忘れましたが私は生理活性のある天然物の全合成研究を行っています。

久々に気分のよいミーティングであったが、共同研究者の日本でいう博士過程2年生のD君がどうやらうまくいってなさそうで、いまやっていることはやめて、私の方を手伝いなさいとボスに言われていました。実は私の合成している化合物は類縁体が多く、なんと5人で合成研究を行っているのです。とはいっても2人ぐらいはほとんど使い物にならない(言ってはいけませんが・・)という状況。しかも、それぞれが別のルートで合成を行っている。全員が仲間でありコンペディターです。いやいや一人がよいんですが・・・・と思いましたが、そんなことも言えず、彼が加わってきました。

ミーティングの後、D君に早速、

「何か手伝えることないか?何でもよいから」

といわれ、いきなり言われて困ったのと、彼は化合物を渡すと、かなりの大きな量で検討をはじめ、すぐになくなってしまうので、ちょっと躊躇し、思いついたまま言ってしまった。

「ジアゾメタンつくってくれないか?」 は!いっておいて、さすがにそんな雑用はいやかなと思い、いややっぱり自分でつくるよといったのですが、彼は快諾してくれました。だからいやです、手伝ってもらうのは。   D君の名誉のために書いておきますが、彼は論文もJ. Am .Chem. Soc., Angewanteだけ(私の分野ではレベルの高い雑誌)で6,7報もっており(もちろん質も高い)、卒業後、ドイツの有名研究室にポスドクが決まっているすばらしく優秀な学生です。実験も全く下手ではありません。

さて、このジアゾメタンとは?と思う方もいらっしゃると思いますので、簡単に記載しておきます。ジアゾメタンCH2N2は、通常Diazald(ジアザルド)というAldrichから売っている試薬からつくります。これは商品名ですので正確な名前はN-methyl-N-nitroso-p-toluenesulfonamideといいます。それ以外にはMNNG(1-methyl-3-nitro-1-nitrosoguanidine)から調製したりもします。

diazomethane.gif

通常は用事調製で、水酸化カリウムと水、エタノール(アルコールを入れたくない場合はdiglyme)に65oC付近でDiazaldのジエチルエーテル溶液をゆっくりと滴下し、それをそのまま蒸留します。

ジアゾメタンは黄色の溶液で、沸点は低く、毒性、さらには爆発性がある化合物です。ジアゾメタンが爆発し片目を失った人を知っています。非常に危険ですのでむやみやたらには作りません。うちのラボではなぜか大量合成して-78oCの冷凍庫にぶっこんでおきますが(よい子はまねをしてはいけません。)

というわけでつくりたくなかったジアゾメタンをつくってもらい、もうしわけない気持ちでいっぱいの一日でした。

Avatar photo

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. CO2の資源利用を目指した新たなプラスチック合成法
  2. テトラサイクリン類の全合成
  3. 元素名を名字にお持ちの方〜
  4. カルボン酸だけを触媒的にエノラート化する
  5. 花粉症の薬いまむかし -フェキソフェナジンとテルフェナジン-
  6. インターネットを活用した英語の勉強法
  7. 銀を使ってリンをいれる
  8. 喜多氏新作小説!『美少女教授・桐島統子の事件研究録』

注目情報

ピックアップ記事

  1. 新世代鎮痛剤の販売継続を 米政府諮問委が勧告
  2. ヴァリンダー・アガーウォール Varinder K. Aggarwal
  3. アルツハイマー薬で副作用死
  4. 副反応を起こしやすいアミノ酸を迅速かつクリーンに連結する
  5. 【9月開催】第1回 マツモトファインケミカル技術セミナー 有機チタン、ジルコニウムが使用されている世界は?-オルガチックスの用途例紹介-
  6. 有機合成化学協会誌2018年10月号:生物発光・メタル化アミノ酸・メカノフルオロクロミズム・ジベンゾバレレン・シクロファン・クロミック分子・高複屈折性液晶・有機トランジスタ
  7. 有機合成化学協会誌2019年12月号:サルコフィトノライド・アミロイドβ・含窒素湾曲π電子系・ペプチド触媒・ジチオールラジアレン
  8. ポリアクリル酸ナトリウム Sodium polyacrylate
  9. 映画007シリーズで登場する毒たち
  10. イチゴ生育に燃料電池

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2007年5月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031  

注目情報

最新記事

有機化学とタンパク質工学の知恵を駆使して、カリウムイオンが細胞内で赤く煌めくようにする

第 641 回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院理学系研究科化学専攻 生…

CO2 の排出はどのように削減できるか?【その1: CO2 の排出源について】

大気中の二酸化炭素を減らす取り組みとして、二酸化炭素回収·貯留 (CCS; Carbon dioxi…

モータータンパク質に匹敵する性能の人工分子モーターをつくる

第640回のスポットライトリサーチは、分子科学研究所・総合研究大学院大学(飯野グループ)原島崇徳さん…

マーフィー試薬 Marfey reagent

概要Marfey試薬(1-フルオロ-2,4-ジニトロフェニル-5-L-アラニンアミド、略称:FD…

UC Berkeley と Baker Hughes が提携して脱炭素材料研究所を設立

ポイント 今回新たに設立される研究所 Baker Hughes Institute for…

メトキシ基で転位をコントロール!Niduterpenoid Bの全合成

ナザロフ環化に続く二度の環拡大というカスケード反応により、多環式複雑天然物niduterpenoid…

金属酸化物ナノ粒子触媒の「水の酸化反応に対する駆動力」の実験的観測

第639回のスポットライトリサーチは、東京科学大学理学院化学系(前田研究室)の岡崎 めぐみ 助教にお…

【無料ウェビナー】粒子分散の最前線~評価法から処理技術まで徹底解説~(三洋貿易株式会社)

1.ウェビナー概要2025年2月26日から28日までの3日間にわたり開催される三…

第18回日本化学連合シンポジウム「社会実装を実現する化学人材創出における新たな視点」

日本化学連合ではシンポジウムを毎年2回開催しています。そのうち2025年3月4日開催のシンポジウムで…

理研の一般公開に参加してみた

bergです。去る2024年11月16日(土)、横浜市鶴見区にある、理化学研究所横浜キャンパスの一般…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー