[スポンサーリンク]

一般的な話題

比色法の化学(前編)

[スポンサーリンク]

比色法を知っていますか?

試薬等を用いてサンプルを発色させ、その発色度合いから濃度等を測定する方法です。この比色法は食品化学、環境分析、生化学など多くの分野において大活躍している方法です。

このトピックでは比色法が具体的にどの分野で、どのように役にたっているのか、また、その方法と原理を簡単に紹介します。

5分で理解!比色法

比色法は数ある測定方法の中でももっとも簡単な原理かもしれません(それだけに奥が深いのですが・・・)。でも、このサイトを御覧になっている方の中には知らない方もいるかもしれないので、基本原理を簡単に説明します。

例えば、測定したい化合物をAとします。このAに発色試薬を混ぜると化学反応が起こり、AはBという化合物になります(図1)。

 

hisyoku1

このBに色がつくので、この濃さを数値化し、間接的にAの濃度を測定するのです。もし、Aの濃度と生成物Bの濃度が比例するならば検量線を引くことにより、Bの色の濃さからAの濃度を決定することができます(図2)。

細胞死を評価する。 〜MTT法〜

   培養細胞を用いた細胞毒性試験や細胞死の経路の解明は、人の疾病の治療法開発の手がかりとなるため、分子生物学者をはじめとする多くの学者によって研究されています。では、細胞が死ぬというのはどういうことなのでしょう?これは突き詰めていくと難しい問題なのですが、学術的な見地からは細胞死はトリパンブルー色素排除試験 (1)MTT法等を用いた比色法 (2)アラマーブルーを用いた蛍光法による方法が認められています。

 そこで今回は比色法の例として、MTT法(MTT assay)を紹介します。MTTとは分子式C18H16BrN5Sで示されるテトラゾリウム塩の一種です。MTTは細胞内に取り込まれると細胞内のミトコンドリアという器官の中にある脱水素によってホルマザン(Formazan)に変化します。このホルマザンは青色の非水溶性結晶であり、生成後は沈殿します1)。これをDMSOなどの有機溶媒で溶解させ、よく混ぜると均一の赤紫色の溶液となるので、この溶液の570 nmにおける吸光度を測定します。

図3  MTT法の原理

MTT自身は水溶性で黄色の溶液ですが、図3のように脱水素酵素による反応によって、MTTとNADHの間に酸化還元反応が起こり、MTTがFormazanに還元され、NADHがNAD+に酸化されます。この脱水素酵素はミトコンドリアの呼吸鎖に関連する酵素で、細胞の健康状態の指標となります。細胞が元気な場合は酵素活性が高いのでFormazanへの還元が起こるが、細胞が弱っている場合はそれがあまり起こらず、細胞が死んでいる場合はほとんど起こりません。この度合いが色の濃さに反映されます。つまり、酵素活性の度合いが色の濃さとなって表れているということです。また、健康な細胞においては細胞数とFormazanの青色色素の濃度との間に良好な検量線を引くことができる(図2でいうと横軸が細胞数、縦軸が赤紫色素の濃さ(吸光度として測定)となる)ので、細胞数計測にも利用されています。

 

実験方法

せっかくなので実験方法を簡単に説明しましょう。詳しくは論文等に載っていますのでそちらをご参照下さい。2), 3)

1. 培養細胞をマルチウェルプレート等に等量ずつ蒔く。
2. MTTは予めPBS(生理食塩水)に溶かしておく。
3. 試験をする時はコントロール群(通常の培養液のみ)と薬剤投与群(薬剤を含む培養液)を同時間、インキュベートする。
4. その後、各群を通常の培養液に交換し、2で作成したMTT溶液を加えて、3時間、インキュベートする。
5. 培養液を除去し、DMSOを入れて、沈殿したホルマザンをよく溶かして、均一な溶液にする。
6. 570 nmの吸光度を測定する。
7. 細胞生存率はコントロール郡を100%として、薬剤投与群のコントロールに対する割合で評価する。

実際にマルチウェルプレート上で試験をすると図4のようなイメージになります。

薬剤Aが濃度依存的に細胞毒性を示していることがMTT法でわかります。学術論文等ではこれを評価し、統計学的に差があることも示します。

いかがでしたでしょうか。このトピックで紹介したテトラゾリウム塩の還元を用いる比色法は、細胞毒性の測定みならず、活性酸素の測定などにも用いられます(NBT(ニトロソブルーテトラゾリウム)を使います)。

後編では食品化学において用いられる比色法について紹介しようと思います。

 

(2005.5. 18 まろ)
※本記事は以前より公開されていたものをブログへ移行したものです。

参考文献

  1.  Mosmann, T., “Rapid colorimetric assay for cellular growth and survival: Application to proliferation and cytotoxicity assays.” J. Immunol. Methods 1983, 65, 55-63.
  2. Pereira, C., Oliveira, C.R., “Oxidative glutamate toxicity involves mitochondrial dysfunction and perturbation of intracellular Ca2+ homeostasis.” Neurosci. Res. 2000, 37, 227-236.
  3. 同仁化学研究所(株)プロトコル集より
  4. MTTの生物学的な反応機構: Liu, Y. et al., “Mechanism of Cellular 3-(4,5-Dimethyl-2-thiazolyl)-2,5-Diphenyl-2H Tetrazolium Bromide (MTT) Reduction.” J. Neurochem. 1997, 69, 581-593.

関連書籍

[amazonjs asin=”4897069297″ locale=”JP” title=”細胞培養入門ノート (無敵のバイオテクニカルシリーズ)”]

 

関連リンク

 

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. ポンコツ博士の海外奮闘録② 〜博士,鉄パイプを切断す〜
  2. 機械学習による不⻫有機触媒の予測⼿法の開発
  3. アミン化合物をワンポットで簡便に合成 -新規還元的アミノ化触媒-…
  4. 架橋シラ-N-ヘテロ環合成の新手法
  5. 各ジャーナル誌、続々とリニューアル!
  6. 研究室でDIY!~割れないマニホールドをつくろう~
  7. 触媒的syn-ジクロロ化反応への挑戦
  8. Google Scholarにプロフィールを登録しよう!

注目情報

ピックアップ記事

  1. 細孔内単分子ポリシラン鎖の特性解明
  2. サノフィ・アベンティスグループ、「タキソテール」による進行乳癌の生存期間改善効果を発表
  3. シャープレス不斉ジヒドロキシル化 Sharpless Asyemmtric Dihydroxylation (SharplessAD)
  4. トンボ手本にUV対策 産総研など 分泌物の主成分を解明
  5. 岸 義人 Yoshito Kishi
  6. Arena/エーザイ 抗肥満薬ロルカセリンがFDA承認取得
  7. ノバルティス、米カイロンを5000億円で完全子会社に
  8. NMR化学シフト予測機能も!化学徒の便利モバイルアプリ
  9. 水中で光を当てると水素が湧き出るフィルム
  10. 取り扱いやすく保存可能なオキシム試薬(O-ベンゼンスルホニルアセトヒドロキサム酸エチル)

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2005年5月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031  

注目情報

最新記事

ヘム鉄を配位するシステイン残基を持たないシトクロムP450!?中には21番目のアミノ酸として知られるセレノシステインへと変異されているP450も発見!

こんにちは,熊葛です.今回は,一般的なP450で保存されているヘム鉄を配位するシステイン残基に,異な…

有機化学とタンパク質工学の知恵を駆使して、カリウムイオンが細胞内で赤く煌めくようにする

第 641 回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院理学系研究科化学専攻 生…

CO2 の排出はどのように削減できるか?【その1: CO2 の排出源について】

大気中の二酸化炭素を減らす取り組みとして、二酸化炭素回収·貯留 (CCS; Carbon dioxi…

モータータンパク質に匹敵する性能の人工分子モーターをつくる

第640回のスポットライトリサーチは、分子科学研究所・総合研究大学院大学(飯野グループ)原島崇徳さん…

マーフィー試薬 Marfey reagent

概要Marfey試薬(1-フルオロ-2,4-ジニトロフェニル-5-L-アラニンアミド、略称:FD…

UC Berkeley と Baker Hughes が提携して脱炭素材料研究所を設立

ポイント 今回新たに設立される研究所 Baker Hughes Institute for…

メトキシ基で転位をコントロール!Niduterpenoid Bの全合成

ナザロフ環化に続く二度の環拡大というカスケード反応により、多環式複雑天然物niduterpenoid…

金属酸化物ナノ粒子触媒の「水の酸化反応に対する駆動力」の実験的観測

第639回のスポットライトリサーチは、東京科学大学理学院化学系(前田研究室)の岡崎 めぐみ 助教にお…

【無料ウェビナー】粒子分散の最前線~評価法から処理技術まで徹底解説~(三洋貿易株式会社)

1.ウェビナー概要2025年2月26日から28日までの3日間にわたり開催される三…

第18回日本化学連合シンポジウム「社会実装を実現する化学人材創出における新たな視点」

日本化学連合ではシンポジウムを毎年2回開催しています。そのうち2025年3月4日開催のシンポジウムで…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー