[スポンサーリンク]

archives

金属ナトリウム分散体(SD Super Fine ™)

[スポンサーリンク]

概要

金属ナトリウム分散体(SD Super Fine ™)は、金属ナトリウムの微粒子が油中に分散しておりシリンジで秤量できるのが特長です。金属ナトリウムの反応性を維持しつつ、安全性・操作性に優れています。Ar-Clと作用させて調製したAr-Naは活性が高く、様々な反応に展開でき、特にAr-NaとAr-Clとの直接クロスカップリング反応は廃棄物の少ない有用な反応です。今回はこの試薬についてご紹介します。

金属ナトリウムの形状と秤量法の違い

一般的に金属ナトリウムというとインゴットやブロックのような外観を想像されると思います。この場合の操作は、まず表面の酸化被膜をカッター等でそぎ落とし、表面をヘキサン等で洗浄して投入します。しかし、表面の油分を完全に洗うことはできず過剰量を用いる形となります。その結果として反応後には注意深くクエンチすることになります。一方、SD Super Fine ™では10 μm程度のナトリウムの微粒子が油中に分散(約25 wt%)しているので、流動性があります。シリンジで吸い上げた状態で秤量し、セプタムを通して反応系に加えた後のシリンジを再び秤量すれば、正確な使用量が算出できます。

金属ナトリウム分散体(SD Super Fine ™)のメリット

1.使用上のメリット ⇒ 従来の金属ナトリウムより安全性と操作性に優れています。

  • 金属ナトリウムが水や空気と穏やかに接触するので、空気中で取扱いが可能
  • 液体と同様に配管供給が可能
  • 分散油は有機溶媒には速やかに溶解/拡散するため、均一な系を実現
  • THFやヘキサンをはじめとした低沸点溶媒中でも使用が可能
  • ナトリウム粒子が小さいため局所的な発熱が小さく、反応を制御しやすい

2.保管上のメリット ⇒ 法律の区分が従来の金属ナトリウムとは異なり、管理しやすい。

消防法:金属ナトリウムは消防法で危険物3類に該当し、指定数量は10 kgです。一方、SD Super Fine™は危険物第4類第3石類非水溶性液体に該当し、指定数量は2000 Lです。SD Super Fine™は比重が約0.9、金属ナトリウム濃度が25 wt%であり、指定数量当たり、約450 kgの金属ナトリウムを保有できることになります。また、危険物第3類の金属ナトリウムと危険物第4類は一緒に保管できませんが、SD Super Fine™は危険物第4類の倉庫にも保管できます。

毒物及び劇物取締法:毒物及び劇物取締法において金属ナトリウムは劇物に指定されていますが、製剤化されたSD Super Fine™は劇物に該当しません。

金属ナトリウムとの比較表

 

 

利用例

溶媒の脱水・脱酸素溶媒として: 金属ナトリウムの利用例として最もポピュラーなのが溶媒の脱水・脱酸素です。エーテル系の溶媒にナトリウムとベンゾフェノンを加えて加熱還流する方法であり、脱水・脱酸素条件になるとベンゾフェノンケチルが生じて液が青色に変化します。SD Super Fine™は微粒子ですので、速やかに反応が進行し、酸化被膜に覆われた未反応のナトリウムが残る状況にもなりにくいです。使用量も約1/10となり、クエンチ時のリスクも低減できます。

有機リチウム種の代替品として: 有機リチウム種は脱プロトン化やハロゲンとの置換反応により、有機活性種を発生させる目的でよく使用されますが、リチウムイオンバッテリー(LIB)の開発により需要が高まり、価格が高騰しています。その代替品として有機ナトリウム種が使える可能性があります。Ar-Clに対して2 当量のSD Super Fine™を反応させるとAr-Naが発生します。これに対してAr’-Clを反応させるとクロスカップリングが進行します。ハロゲン化物として比較的安価な塩素化合物を用いるため、コスト的にも有利となって廃棄物の重量も少ないプロセスが実現できます。また、Ar-Naとハロゲン化塩を反応させるトランスメタル化、求電子剤としてB(OR)3を用いた反応を適用すれば、各種クロスカップリング反応の中間体へと誘導することもできます。用途に応じた使い分けができます。

おわりに

試薬の形状が変わると、新しい使い方も生まれてきます。今回の分散液も性能と使いやすさの面で大きなメリットがありますので、ぜひ試していただきたいです。詳しくは関連ページをご確認ください。

参考文献

Asako, S.; Nakajima, H.; Takai, K. Nat. Catal.,2019, 2, 297-303. DOI:10.1038/s41929-019-0250-6

Asako, S.; Kodera, M.; Nakajima, H.; Takai, K. Adv. Synth. Catal.,2019, 361, 3120-3123. DOI:10.1002/adsc.201900215

関連サイト

 

Avatar photo

富士フイルム和光純薬

投稿者の記事一覧

「次の科学のチカラとなり、人々の幸せの源を創造する」
みなさまの研究開発を支えるチカラとなるべく、
これからも高い技術とクオリティで、次代のニーズにお応えします。
Twitterでの情報提供を始めました。

関連記事

  1. アルキルラジカルをトリフルオロメチル化する銅錯体
  2. 世界初!ラジカル1,2-リン転位
  3. 進化する電子顕微鏡(TEM)
  4. 安定なケトンのケイ素類縁体“シラノン”の合成 ケイ素—酸素2重結…
  5. ディストニックラジカルによる多様なアンモニウム塩の合成法
  6. あなたの体の中の”毒ガス”
  7. bothの使い方
  8. フラーレンが水素化触媒に???

注目情報

ピックアップ記事

  1. 危険物データベース:危険物に関する基礎知識
  2. 架橋シラ-N-ヘテロ環合成の新手法
  3. 「溶融炭酸塩基の脱プロトン化で有用物質をつくる」スタンフォード大学・Kanan研より
  4. だれが原子を見たか【夏休み企画: 理系学生の読書感想文】
  5. 構造化学の研究を先導する100万件のビッグデータ
  6. 小さなケイ素酸化物を得る方法
  7. 進化する電子顕微鏡(TEM)
  8. 18F-FDG(フルオロデオキシグルコース)
  9. 海洋エアロゾル成分の真の光吸収効率の決定
  10. JACSベータ

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2021年4月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
2627282930  

注目情報

最新記事

TLC分析がもっと楽に、正確に! ~TLC分析がアナログからデジタルに

薄層クロマトグラフィーは分離手法の一つとして、お金をかけず、安価な方法として現在…

先端の質量分析:GC-MSおよびLC-MSデータ処理における機械学習の応用

キャラクタライゼーションの機械学習応用は、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)およびラボオートメ…

原子半径・電気陰性度・中間体の安定性に起因する課題を打破〜担持Niナノ粒子触媒の協奏的触媒作用〜

第648回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院工学系研究科(山口研究室)博士課程後期2年の松山…

リビングラジカル重合ガイドブック -材料設計のための反応制御-

概要高機能高分子材料の合成法として必須となったリビングラジカル重合を、ラジカル重合の基礎から、各…

高硬度なのに高速に生分解する超分子バイオプラスチックのはなし

Tshozoです。これまでプラスチックの選別の話やマイクロプラスチックの話、およびナノプラスチッ…

新発想の分子モーター ―分子機械の新たなパラダイム―

第646回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機反応論研究室 助教の …

大人気の超純水製造装置を組み立ててみた

化学・生物系の研究室に欠かせない超純水装置。その中でも最も知名度が高いのは、やはりメルクの Mill…

Carl Boschの人生 その11

Tshozoです。間が空きましたが前回の続きです。時系列が前後しますが窒素固定の開発を始めたころ、B…

PythonとChatGPTを活用するスペクトル解析実践ガイド

概要ケモメトリクスと機械学習によるスペクトル解析を、Pythonの使い方と数学の基礎から実践…

一塩基違いの DNA の迅速な単離: 対照実験がどのように Nature への出版につながったか

第645回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院工学系研究科相田研究室の龚浩 (Gong Hao…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー