有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2020年12月号がオンライン公開されました。
もう12月ということに驚いています。今年は歴史に刻まれるであろうとても大変な年でしたね。
有機合成化学協会誌は今月号も充実の内容です。
キーワードは、「2H–アジリン・配糖体天然物・リガンド–タンパク質間結合・キラルホスフィンオキシド・トリペプチド触媒・連続フロー水素移動反応」です。
今回も、会員の方ならばそれぞれの画像をクリックすればJ-STAGEを通してすべてを閲覧することが可能です。
巻頭言:新しい時代の研究スタイルとは
今月号は、東京工業大学理学院化学系 江口 正 教授による巻頭言です。
古くて新しい2H–アジリンの化学 -選択的合成および変換反応
京都大学大学院工学研究科物質エネルギー化学専攻
2H-アジリン。それは、高度に歪んだシクロプロペン骨格と分極した炭素―窒素二重結合をあわせ持つ高反応性化学種である。本総説では、2H-アジリンの合成法と、2H-アジリンを反応剤として用いるクラシカルな反応から、最新の金属触媒や光触媒を用いた反応まで詳細にまとめられている。
触媒制御型位置選択的アシル化法の開発と新規逆合成解析に基づく配糖体天然物の全合成への展開
京都大学化学研究所
糖類は多くの遊離水酸基を持ち、その位置選択的アシル化は通常困難である。本稿では、触媒の高度な分子認識能に基づく位置選択性の制御について述べる。本法は、グルコースへの保護基を用いない配糖体天然物の短段階全合成に適用できる。
リガンド–タンパク質間結合におけるN+-C-H···O 水素結合とそのドラッグデザインへの応用
大阪大学産業科学研究所
「C-H···O水素結合は弱い!」と思われていますが、アンモニウムカチオンに結合したC-H基は、強いC-H···O水素結合(N+-C-H···O水素結合)を形成することができます。本稿では、N+-C-H···O水素結合を創薬化学の視点から解析し、ドラッグデザインへと応用した研究成果を紹介しています。是非ご一読ください。
キラルなホスフィンオキシドを触媒とする2つのカルボニル化合物間の不斉アルドール反応
熊本大学大学院生命科学研究部(薬学系)
ホスフィンオキシドと塩化ケイ素化合物から成る高配位ケイ素複合体を鍵とする不斉交差アルドール反応の開発と多不斉中心を有する光学活性化合物の合成方法開発への展開に関する総合論文です。筆者らが開発に成功してきた一連の研究成果を経緯とともに解りやすく説明してある。
トリペプチド触媒による活性化ケトン類の直接的不斉アルドール反応
北見工業大学工学部応用化学系
ペプチド触媒による高エナンチオ選択的アルドール反応の実現に向けた、小針先生らの最近の取り組みが丁寧にまとめられています。
連続フロー水素移動反応を鍵としたセラミド連続製造への取り組み
桑名雅宏*、峠 太一郎、駒月康浩、齊藤隆夫
優れた合成プロセスは、反応の効率だけではない。不斉水素移動反応を鍵工程とする光学活性セラミドのフロー連続生産を実現するために、各反応の検討のみならず、試薬の加え方や精製方法などプロセスの細部までブラッシュアップしていく企業研究の醍醐味が詰まった総合論文です。
Review de Debut
今月号のRebut de Debutは1件です。オープンアクセスなのでぜひ。
・ラダラン関連分子とその応用 (東京大学大学院工学系研究科)堂本悠也
ケミカルズ覚え書き:リチウムアミド
少々久しぶりとなるケミカルズ覚え書きの記事です。商品として流通している工業的、実験室的に興味のある化学物質に関する技術情報をまとめた記事です。化学を始めたばかりの人、どっぷり浸かってる人の両方に有用です。
ロックウッドリチウムジャパン株式会社の岡野一哉さんによる記事です。
感動の瞬間:機能を持つ天然物の合成研究はおもしろい
今月号の感動の瞬間は、関西学院大学理工学部の勝村 成雄 教授による寄稿記事です。
「他人の真似でなく自分達の手作りの研究には必ずや感動の瞬間が訪れる」という言葉に非常に勇気づけられました。必見です。
これまでの紹介記事は有機合成化学協会誌 紹介記事シリーズを参照してください。