[スポンサーリンク]

archives

光反応性ジアジリンアミノ酸:Fmoc-Tdf-OH, H-Tdf-OH, Boc-Tdf-OH

[スポンサーリンク]

光反応性ジアジリンアミノ酸は、レセプターであるタンパク質との間で共有結合を形成するという特性があり、高次構造が変化しても解離することがないため、SDS-PAGEのように変性操作をともなう実験でも使用できる。レセプターとリガンドの結合部位を決定する実験、特にSDS-PAGEを使用する実験を考えておられる方におすすめです。

SDS-PAGEによるタンパク質高次構造の変化

生体内において、レセプターとリガンドは鍵と鍵穴のように結合する相手が決まっており、その結合の結果として様々な現象を引き起こしています。このレセプターとリガンドの相互作用を理解することは生化学や薬理学の研究で最も重要なことの1つです。複数のサブユニットからなるタンパク質でできたレセプターについて、どのサブユニットがレセプターとして働いているのかを知るための方法として電気泳動がありますが、その中でよく使用される手法の一つにSDS-PAGEがあげられます(1)SDS-PAGEでは、資料の前処理にSDSを用いてタンパク質の高次構造を壊す必要があるのですが、この時にレセプター(サブユニット)とリガンドが解離してしまっては、リガンドがどのサブユニットに結合していたかわからず役に立ちません。

図1. SDS-PAGEによるタンパク質高次構造の変化 (1)レセプター(複数のサブユニットから成り、4次構造を持つタンパク質) (2)リガンドが結合する (3)電気泳動の前処理によりサブユニットがバラバラになり (4)二次構造もほどけ、一次構造となる

 

今回紹介する光反応性ジアジリンアミノ酸は、レセプターであるタンパク質との間で共有結合を形成するという特性があり、高次構造が変化しても解離することがないため、SDS-PAGEのように変性操作をともなう実験でも使用できる便利な標識試薬です。

光反応性ジアジリンアミノ酸

ジアジリン部位は、光照射するとカルベンを生じます。カルベンは非常に反応性に富んでいるため、最近接の分子と共有結合する性質をもっています(図2)。

図2, ジアジリンの光照射によるクロスリンク(イメージ)

 

通常、リガンドは対応するレセプターと水素結合やイオン結合により可逆的な結合を作ります。SDS-PAGEでは前述の通り前処理によってリガンドとレセプターが解離してしまい、どのタンパク質あるいはサブユニットがレセプターとして働いていたのか分からなくなります。しかし、ジアジリンアミノ酸を導入したリガンドを用いた場合、光照射することで最近接分子であるレセプターとの間に共有結合が形成されるため変性条件下でも解離せず、標識したリガンドが結合しているタンパク質を知ることができます。

ジアジリン化合物とアジド化合物の比較

ジアジリンと同様によく用いられるアジド化合物の特徴について比較したものが、表1です。ジアジリンの特徴は、ニトロ化やFriedel-Crafts反応などの過酷な条件に耐えることができるほど化学的に安定で、ペプチド固相合成においても保護せず用いることができるため、様々なリガンドへの導入が可能です。

表1. ジアジリン化合物とアジド化合物の比較

 

リガンドがレセプターと結合した後の光反応についても、比較的短時間の紫外線照射で反応が進行するため、タンパク質の変性や失活を防ぐことができるという点で有利です。たとえば、リガンドとレセプターを共有結合させるための類似の方法としてアジドへの光照射でナイトレンを生じさせる方法が挙げられます。アジド→ナイトレンの生成にはλ= 300nmの紫外線が必要なのに対して,ジアジリン→カルベンの生成は、アジドの場合に比べてやや長波長(360nm)で反応を進行させることができます。また、ナイトレンよりもカルベンの反応性の方が高いため、より短時間の光照射でスムースに標識反応を進めることができます。

共有結合の強さについても、アジドでのクロスリンクはアミノ酸配列を決めるためのエドマン分解で切断されますが、ジアジリンの場合はその程度で切れることはありません。ジアジリンを標識したリガンドとレセプターが結合しなかった場合、ジアジリンの最近接分子はレセプターではなく周辺に存在する水などの溶媒となり、ジアジリンとレセプターが共有結合を作ることはありません(3)。合成のしやすさではアジド化合物の方が有利となりますが、SDS-PAGEなど実際の解析操作においてはジアジリンの方が有利となっています。

図3. ジアジリン導入済みリガンドの光反応の様子 (a) 対応するレセプターと結合した場合 (b) 対応するレセプターに結合しなかった場合

TDfを用いた研究

Tdfを利用した最近の研究では、アンギオテンシンⅡがGタンパク共受容体に作用するときのメチオニン(Met)選択性を調べるために、C端にFmoc-Tdfを結合させたペプチドが使用されました(図4-1)。

図4-1. Tdfを利用した研究例(1)

 

カルベンの高い反応性は、リガンドの結合点を決めるのに非常に便利であるといえます。さらに、Tdfは生化学実験の試薬としてだけでなく、治療薬としての応用が期待されています。例えば、アルツハイマーの治療薬が挙げられます(図4-2)。アルツハイマーの治療としては、アミロイドβの凝集を妨げることが一般に知られています。Kinoらのグループは、アミロイドβに親和性を持つ環状ペプチドにジアジリン部位を導入し、UV照射することによってアミロイドβのTyr10と環状ペプチドのジアジリン部位との間に共有結合を生じることに成功し、その結果アミロイドβの凝集力や毒性を低下させることを報告しています。

図4-2, Tdfを利用した研究例(2)

 

レセプターとリガンドの結合部位を決定する実験、特にSDS-PAGEを使用する実験を考えておられる方におすすめです。

商品とお問い合わせ

渡辺化学工業株式会社
〒730‐0853 広島市中区堺町2丁目2番5号
TEL:(082) 231‐0540 FAX:(082) 231‐1451
ホームページ:http://www.watanabechem.co.jp
E‐mail: sales@watanabechem.co.jp

*本記事は渡辺化学工業様からの寄稿記事です。

関連リンク

Avatar photo

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. 世界の「イケメン人工分子」① ~ 分子ボロミアンリング ~
  2. 【7/28開催】第3回TCIオンラインセミナー 「動物透明化試薬…
  3. 化学系スタートアップ2社の代表が語る、事業の未来〜業界の可能性と…
  4. ガラス器具の洗浄にも働き方改革を!
  5. 【11月開催】第3回 マツモトファインケミカル技術セミナー 有機…
  6. ヘテロ原子を組み込んだ歪シクロアルキン簡便合成法の開発
  7. 製薬系企業研究者との懇談会(オンライン)
  8. 機械学習は、論文の流行をとらえているだけかもしれない:鈴木ー宮浦…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 手で解く量子化学I
  2. システイン選択的タンパク質修飾反応 Cys-Selective Protein Modification
  3. プレプリントサーバー:ジャーナルごとの対応差にご注意を【更新版】
  4. Reaxys Prize 2017ファイナリスト発表
  5. 京都大学人気講義 サイエンスの発想法
  6. Reaxys PhD Prize 2020募集中!
  7. 金属-金属結合をもつ二核ランタノイド錯体 -単分子磁石の記録を次々に更新-
  8. ベンゼン環が速く・キレイに描けるルーズリーフ
  9. 入江 正浩 Masahiro Irie
  10. 発想の逆転で糖鎖合成

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2019年3月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

注目情報

最新記事

MEDCHEM NEWS 34-1 号「創薬を支える計測・検出技術の最前線」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

医薬品設計における三次元性指標(Fsp³)の再評価

近年、医薬品開発において候補分子の三次元構造が注目されてきました。特に、2009年に発表された論文「…

AI分子生成の導入と基本手法の紹介

本記事では、AIや情報技術を用いた分子生成技術の有機分子設計における有用性や代表的手法について解説し…

第53回ケムステVシンポ「化学×イノベーション -女性研究者が拓く未来-」を開催します!

第53回ケムステVシンポの会告です!今回のVシンポは、若手女性研究者のコミュニティと起業支援…

Nature誌が発表!!2025年注目の7つの技術!!

こんにちは,熊葛です.毎年この時期にはNature誌で,その年注目の7つの技術について取り上げられま…

塩野義製薬:COVID-19治療薬”Ensitrelvir”の超特急製造開発秘話

新型コロナウイルス感染症は2023年5月に5類移行となり、昨年はこれまでの生活が…

コバルト触媒による多様な低分子骨格の構築を実現 –医薬品合成などへの応用に期待–

第 642回のスポットライトリサーチは、武蔵野大学薬学部薬化学研究室・講師の 重…

ヘム鉄を配位するシステイン残基を持たないシトクロムP450!?中には21番目のアミノ酸として知られるセレノシステインへと変異されているP450も発見!

こんにちは,熊葛です.今回は,一般的なP450で保存されているヘム鉄を配位するシステイン残基に,異な…

有機化学とタンパク質工学の知恵を駆使して、カリウムイオンが細胞内で赤く煌めくようにする

第 641 回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院理学系研究科化学専攻 生…

CO2 の排出はどのように削減できるか?【その1: CO2 の排出源について】

大気中の二酸化炭素を減らす取り組みとして、二酸化炭素回収·貯留 (CCS; Carbon dioxi…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー