概要
硫黄(VI)フッ化物(R-SO2-F or SO2F2)は酸化・還元・加水分解などの各種化学条件に安定であるが、プロトン源もしくはケイ素化合物の存在下にそのS-F結合は活性化され、交換反応を起こしうる。
この性質をもとに様々な官能基ユニット連結が行えることが示されている。高い化学選択性と官能基許容性を示すため、クリックケミストリーを体現する反応の一つとして提案されている。
基本文献
<Review>
- Steinkopf, W. J. Prakt. Chem. 1927, 1, 1. DOI: 10.1002/prac.19271170101
- Dong, J.; Krasnova, L.; Finn, M. G.; Sharpless, K. B. Angew. Chem. Int. Ed.2014, Early View. DOI: 10.1002/anie.201309399
<Click Chemsitry>
- Kolb, H. C.; Finn, M. G.; Sharpless, K. B. Angew. Chem. Int. Ed. 2001, 40, 2004. [abstract]
反応機構
硫黄(VI)フッ化物はそれ自体は、以下の理由から安定な化合物として存在する。
S(VI)-Fの結合エネルギーはおよそ80-90kcal/mol (SO2F2)程度とされており、S(VI)-Clのそれ(SO2Cl2:46kcal/mol)よりも圧倒的に強固である。
S(VI)中心での求核置換反応は、一般にきわめて遅いことが知られている。 例えば以下の例では、硫黄原子ではなく塩素原子上で置換が起こり、塩化物も副生してくることが知られている。(S(VI) 上での置換反応はほとんどアリールスルホネートでのみ観測されるため、超原子価硫黄中間体の関与が想定されうるが、実験的証拠に乏しく未だ推測の域を出ない。)
S-F交換過程にはプロトン(H+)もしくはケイ素(R3Si+)のアシストが必須である。
反応例
フッ化スルホニル類の合成法:塩化スルホニル経由で容易に調製できる。またその電子求引性を利用したMichealアクセプターとしての変換経由でも合成できる。
SO2F2気体とアルコール間の置換反応でフルオロスルホネートを合成することも可能。-OSO2F基は良好な脱離基としても働きうるので、もっぱらフェノールへの適用が主となる。
2級アミンと間との反応によってフッ化スルファモイルを合成できる(1級アミンとの反応生成物はHFが脱離しやすく不安定)。
触媒量の塩基存在下にシリル保護されたフェノールを用いた交換も可能。以下は巨大官能基性ユニット連結に用いた例。副生してくるフッ化ケイ素は不活性なので、生成物の機能に影響を与えづらい。
SuFEx反応を用いたビスフェノールAサルフェートポリマーの合成[1]
実験手順
実験のコツ・テクニック
※SO2F2気体は毒性があるので、ドラフト内で取り扱うことが推奨されている。
参考文献
[1] Dong, J.; Sharpless, K. B.; Kwisnek, l.; Oakdale, J. S.; Fokin, V. V. Angew. Chem. Int. Ed. 2014, Early View. doi:10.1002/anie.201403758
関連書籍
[amazonjs asin=”0470699701″ locale=”JP” title=”Click Chemistry for Biotechnology and Materials Science”][amazonjs asin=”3527320857″ locale=”JP” title=”Click Chemistry: In Chemistry, Biology and Macromolecular Science”][amazonjs asin=”4781309542″ locale=”JP” title=”クリックケミストリー―基礎から実用まで (ファインケミカルシリーズ)”]外部リンク
- クリックケミストリー≠Huisgen反応、2つの意味で。(気ままに有機化学)
- クリックケミストリー – Wikipedia
- アジドの話(有機化学美術館)
- The Sharpless Lab