分子モーター(Molecular Motor)は、分子機械(分子レベルの機械装置・究極のナノテクノロジー)における素子の一つです。モーター機能を単一分子(もしくは複数分子の複合体)の分子で実現してしまおう、というものです。
人工的にはロタキサン・カテナンなどの超分子骨格を用いて研究されることが多いですが、動力学機構を実際に備えたものはほとんど報告がありません。
冒頭の図でも示されている、オレフィン架橋型ヘリセン分子は、オランダ・グローニンゲン大学のBen Feringaによって1999年に開発されました。[1] 熱/光のエネルギーを周期的にかけてやることで一方向にだけ回転するという、ユニークな特性を持ちます。
東北大の原田宜之らは、世界で始めて動力機構を備えた光動力分子モーターの構築に成功しています。これは、オレフィンのシスートランス光異性化を回転の動力源とし、ツメ歯車効果、モーター分子のキラリティの特性を生かしたものです。
一方で、生物界で知られるたんぱく質・RNAでできた分子の中には、モーター挙動を示すものが知られています。
ATP合成酵素(ATP synthase)は、アデノシン三リン酸(ATP)を分解・消費して上にくっついたF1部位を回転させることが実験的に観測されています。[2] ATPを燃料とした分子モーターというわけです。
では逆に、これを人力的に回してやればどうなるでしょうか?なんと、これによってATPが化学合成されてくるそうです(!)。モーターに対する”発電機”の関係と同じというわけですね。これを実証せしめた[3]のは日本人研究者です。こんなミクロな世界にまで人工物と自然のアナロジーが観られるというのは、本当に面白いですね。
関連文献
- Koumura, N.; Zijlstra, R. W. J.; van Delden, R. A.; Harada, N.; Feringa, B. L. Nature 1999, 401, 152.
- Noji, H.; Yasuda, R.; Yoshida, M.; Kinoshita, K. Nature 1997, 286, 299. [Abstract]
- Itoh, H.; Takahashi, A.; Adachi, K.; Noji, H.; Yasuda, R.; Yoshida, M.; Kinoshita, K. Nature 2004, 427, 465. [Abstract]
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関連書籍
関連リンク
- 分子モーターを人為的に回転させてATPを合成することに世界で初めて成功 (JSTプレスリリース)
- 分子モーター – Wikipedia
- Molecular Motor Spins on Surface (C&EN)
- Synthetic Molecular Motors – Wikipedia
- Molecular Motor – Wikipedia
- Nanomotor – Wikipedia
- 分子モーターの話題(生活環境化学の部屋)
- 光動力キラル分子モーター (生活環境化学の部屋)
- 分子の歯車 (有機化学美術館)
- ATP synthase – Wikipedia
- ATP合成酵素 – Wikipedia
- まわる分子との対話―ATP合成酵素の仕組みを探る
- ATP合成酵素 回転するナノ分子モーター
- ATP合成酵素の回転運動を実証(ナノネットインタビュー)