分子のひずみ? |
ひずみとは何ぞや?まずここから話そう
▼ ひずみとは?
ひずみという概念はBaeyerの張力説(1885年)にその起源を求めることができる。A.von Baeyerはシクロプロパンが通常の炭化水素と違って反応性に富む理由を、C−C−C角が正四面体角109.5°から60°に押し縮められていることによってひずみを生じたためであると考えた。また一般にシクロアルカンを平面正多角形と考え、その内角と正四面体角との差が大きいほどひずみが大きいと考えた。 その後、シクロプロパン以外のシクロアルカンは平面構造ではないことがわかってきて、Baeyerの説をそのまま受け入れることはできなくなったが、ひずみの概念をはじめて有機化学に導入した功績は大きい。
ということで、ひずみは、分子が安定ではないときに受ける力と考えることができる。
では、どのようなひずみが働いているのか?その種類を下記の表1に挙げてみる。
▼ ひずみの働き
表1 ひずみの種類
※結合角ひずみは小員環をもつ分子や堅固な環状構造をもつ場合にしばしばみられる。 ※立体ひずみはもっぱら非結合原子間の反発的相互作用に基づく。
つまり、ひずみは主に分子が近接せざるを得ないときに、結合角を変え(結合角の変化)、より安定なものになろうという力であり、また結合角を変えれなければ、ねじれてみたり(ねじれ角の変化)それでも安定でなければ、分子同士遠くに行ってみたり(結合距離の変化)するときに起こる力であるということができる。
しかし、結合距離の変化は結合角やねじれ角の変化に比べて、大きなエネルギーを要するので、立体ひずみが極めて大きく、しかも他の因子では解消できないときに初めて顕著に表れる。 実際の分子の構造やエネルギーはこれらの因子のバランスによって決まる。
では、大きなエネルギーを有するといったが、定量的にはどのように表されるのだろうか?
ひずみの大きさは定量的にひずみエネルギー(strain energy:SE)として表すことができる。
▼ ひずみエネルギー
ひずみエネルギーとは「問題とする分子の内部エネルギーと、その分子と同じ原子配置をもち、かつひずみのまったくない仮想的な分子の内部エネルギーの差」として表される。 ※内部エネルギーは、適当な基準からの相対値でよく、たとえば実測される燃焼熱あるいはそれから計算される分子生成熱が良く用いられる。
例として、シクロアルカンCnH2nの燃焼熱HcとそのひずみエネルギーSEを表2に表す。
表2 シクロアルカンCnH2nの燃焼熱HcとひずみエネルギーSE
*SEの単位はkJmol-1 *658.6はシクロヘキサン(n=6)におけるメチレン一個あたりの燃焼熱
ひずみはあらゆる分子に多かれ少なかれ存在していて、その分子の構造、エネルギー、反応性に影響を与えている。 有機って面白いよね! (2000/6/7 ブレビコミン) |
【用語ミニ解説】
■シクロプロパン
cyclopropane。 メチレン3個からなる三角形の炭化水素。
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メタン、ベンゼンからバイアグラ、ダイオキシンまで、付属CD-ROMに分子データを収録した分子事典。掲載データは、系統名、分子式、分子量、性状、沸点など。索引付き。約1200の分子の3Dモデルを収録したCD-ROMを付録とする。
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