パックマン!? |
有名な有機化合物にパックマンがあること知ってる?化学の世界ではカリオフィレンというらしいがB&B(ブレビコミン&ボンビコール)はパックマンと呼んでいます(図1)。
図1 カリオフィレン(左)とパックマン(右) 注1 ※カリオフィレンに色はついていません。
▼ カリオフィレンとは?
カリオフィレンは、もともとチョウジ(Eugenia caryophyllata、Syzygium aromaticum)のつぼみ、および花の精油から単離された成分である。カリオフィレンは植物中にイソカリオフィレン(isocaryophyllene)との混合物として存在しており、当時はそれらを分離する有効な手段はなかった。また、カリオレフィンは先例のない4員環および9員環からなる特異な化合物であったこと、さらに、構造解析のための反応を行っても転移反応や渡環反応を伴うことが多く、元の骨格とはまったく異なる構造の生成物が得られたこと、などの理由によりそれらの構造解析は困難を極めた。
1950年代に入り、多くの化学者の努力とX線結晶解析法の導入により、カリオフィレンは4員環と9員環がトランスに縮環したビシクロ[7.2.0]ウンデカン骨格を有する二環性化合物であることがはじめて明らかにされた。また、カリオフィレンと イソカリオフィレンは互いに9員環に含まれる三置換オレフィン結合の幾何異性体であることが化学的に証明された{カリオフィレンは9員環オレフィン部位が(E)-オレフィンであるのに対し、イソカリオフィレンは(Z)-オレフィンである(図2)}。
図2 カリオフィレンとイソカリオフィレン
カリオフィレンとイソカリオフィレンの合成上の課題は、 1)4員環と9員環からなるビシクロ[7.2.0]ウンデカン骨格の構築 2)トランスに縮環した核間立体化学の制御 3)トランスおよびシスの立体化学を持つオレフィンの立体選択的導入 の3つである。なかでも1)、特に9員環の形成が合成上の最も重要な課題である。
▼ カリオフィレンの全合成
ここでパックマン(カリオフィレン)のE.J.Coreyらによる全合成ルート(図3)を紹介する。
図3 パックマン(カリオフィレン)の全合成ルート
やっぱり有機って面白いよね!!! (2000/6/27 ボンビコール) |
【用語ミニ解説】
■パックマン
ナムコのゲーム「パックマン」のキャラクター。ギネスブックより「最も成功した業務用ゲーム機」として掲載されている。
■X線構造解析
化合物の単結晶にX線を照射して起きる回折現象から,電子密度分布を解析する手法。
X線結晶構造解析の基礎知識から、低分子化合物の構造解析、生体高分子であるタンパク質のX線構造解析の実際、トラブルシューティングの例までを紹介した、実験室で役立つ実用的な入門書。
■幾何異性体
二重結合に結合している置換基の空間的な配置が異なっている化学式が同様の化合物 。
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■E.J.Corey
(写真:nobelprize.org)
Elias James Corey。ハーバード大教授。合成化学の権威。1990年「有機合成の理論および方法論の開発」でノーベル化学賞を受賞。Corey-Bakshi-Shibata還元、向山-Corey法、Corey-Winter法 、Corey-Kim酸化、Corey-Fuchsアセチレン合成と多数の人名反応を開発し、これらの反応を用いて多くの天然物の全合成を行った。 |