反応の立体障害 |
立体障害(steric hindrance)とは分子内で互いに接近して存在する原子または原子団の間の交換反発力のために、正常な原子化の方向性がゆがめられたり、結合の周りの自由回転や共鳴現象が妨げられたりすることをいう。といっても難しいという方もいると思うので、反応するときの立体障害ということで簡単に説明してみよう。
例えばAとBという物質が反応するとする。(Aは攻撃側、Bは攻撃を受ける側)。反応が起こるためにはAという攻撃試薬がBの反応点の近くまで到達しなければならない。もし仮に反応 点近くの空間をすでに他の原子、または原子団が占有していたとしたらAの接近は妨げられ、反応は起こりにくくなるだろう。逆にその空間が合いていれば、反応がスムーズに行われることを意味する。
身近なものにたとえれば、穴のあいた壁にボールをぶつけることを考えてみよう。穴にボールが入れば成功(反応が進む)である。この穴が小さければなかなかボールは入らない。ましてやボールが通れないほど小さな穴ならば絶対に成功しない(反応は起こらない)
さて、教科書によく取り上げられている立体障害の代表的なものはSN2反応に対するものがある。
例えば図1のようなハロゲン化アルキルのSN2反応の場合、反応点の近くにかさ高い置換基を導入すると、反応速度が著しく低下する。(表1)脱離基に対して背面からの攻撃の際、置換基と試薬の間に大きなぶつかり合いを生じるからである。3次元モデルで見てみるとそれがよくわかる。(図2)反応点が置換基の少ない方(左)より置換基の多いほう(右)が置換基に阻まれて小さくなっている。
図1SN2反応(Nu-:求核試薬 X:ハロゲン)
表1 各ハロゲン化アルキルのSn2反応に対する相対速度
図2 CH3Cl (CH3)3CCl (●:反応点炭素 ●:塩素 ●:その他の炭素 ●:水素)
ケトン類やエステル類に対するGrignard試薬の反応も立体的な障害に非常に鋭敏である。障害の大きなケトン類(hindered ketone)はGrignard試薬に対して正常の反応は行わない。例えば、ズリルフェニルケトンのような立体障害の大きいケトンは図3ような異常反応(1,6-付加)が起こる。
図3 ズリルフェニルケトンとGrignard試薬の反応
逆に立体障害が反応を促進する場合もある。それを立体加速(ateric acceleration)という。これは又例え話をすると、壁にあいた穴が例えばたくさんあるとするとどれに入るかわからない。(つまり、他の反応が起こってしまう可能性もある。よって主反応の速度も遅くなる)しかし、他の穴をふさいで、さらに入れたい穴を何らかの方法で拡張すれば穴に入りやすくなる(つまり反応は加速される)という考え方である。
このように、立体障害は反応進行に対して大きな役割がある。しかし、複雑な化合物に対してこのような立体障害を考え、うまく制御するのは難しい。理由はわかるだろう。それが合成する際、理論どおりに反応が進まない原因の一つとなる。
有機って面白いよね!! (2000/10/20 byブレビコミン)
▼参考、関連文献
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【用語ミニ解説】
■SN2反応
二分子求核置換反応。求核剤が炭素に対して、脱離基の背面から衝突することで反応が始まる。
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