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分離科学という分野について "What's Separation Science?"

 

 分離科学は「分析化学」「物理化学」「有機化学」の間に位置していると,私個人は考えます.要求が「分離さえできればよい」というものから,「どうやって効率よく分離するか」に変わった瞬間,一気にハードルが高くなります.こうすれば絶対!という理論の確立されていない分野ですから,多くの分野の知識はもとより経験がモノを言います.ですから,私は実務の傍ら多くの専門の方とディスカッションするということが非常に重要だと思います.そのため,各種セミナー,クロマトグラフィー科学会議分析化学会分析展などに足を運ばれれば,必ず有益な時間となるはずです.

 

  また,この分野の参考文献として,書籍では洋書(例えばUwe D.Neueら著Hplc Columns )に丁寧な記述が見られます.国内では特に1980〜1990年代にかけて「ライフサイエンスのための高速液体クロマトグラフィー 」など良書が出版されているように思います(新品では入手困難で図書館か古書店でしか見られませんが・・・).また日本分析化学会発行「ぶんせき」に収録されている記述も初心者向けですが最新技術が解説されており,秀でています(こちらもバックナンバーの閲覧は大学図書館等限られた場所でしかできませんが).

 

近年ではカラムメーカーのカタログが充実しており,下手にページ数の少ない入門用書籍よりも有益です(しかもカタログなので無料!).またwatersAgilentShodexなどの装置及びカラムメーカーは各種セミナーを実施しており,分離の基礎やHPLC操作法など丁寧に解説して頂けます.特に実務で要求されるために勉強したい!という方におすすめします.separationsnow.comなども情報源として便利です.

 

 我が国では本年よりポジティブリスト制移行に係る農薬分析の変化など,技術者にとっても学問としても難しい問題に直面しており,さらなる発展が見込まれる分野だと思います.


分析化学の真骨頂 ガスクロマトグラフィー(GC) and 高速液体クロマトグラフィー(HPLC)

  

 分析化学の目標は「複数成分を含む混合物を分離し,何がどれだけ存在するかを知る(定量する)こと」にあります.その意味では,分離と分析が自動で行えるため,誰が測定しても同じ結果が得られる(再現性が高い)という特徴を持つ機器分析,特にガスクロマトグラフィー(GC)と高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は分析化学の究極を具現化したもののひとつだと思います.

 

 HPLCなど機器分析は,初心者でもすぐに使えるほどカンタンになりましたが,うまく分離するには充填剤*の種類や移動相*溶媒に精通し,微量成分検出には検出器(紫外可視吸収,蛍光*,赤外吸収,質量分析*,核磁気共鳴,示差屈折* etc.)それぞれの特徴を知る必要があります.例えば,紫外可視領域に吸収を持たない糖類でも,紫外可視吸収検出器で無理矢理検出させることも可能なのです.

 

分離科学

  

 機器分析,分離分析は,「分析」と「分離」に大別されます.分離は,分液漏斗を使った液液分離(二相分離)が最も簡単です.固液分離としては,溶液の入ったビーカーに吸着剤となる粒子を加えることで溶液中の溶出を分離する「バッチ法」から,薄層クロマトグラフィー(TLC)やカラムクロマトグラフィー,HPLCなどがあります.固気分離は,固定相に充填カラムや充填剤を用いない中空のフューズドシリカキャピラリー(溶融シリカ毛細管)を使用したガスクロマトグラフィーがあります(フューズドシリカキャピラリーは,毛細管の内側表面がSiOHによってわずかに電気陰性を帯びていることでクーロン力により保持します).

 

 お互いに混じり合わない二相分離による分離は,有機物のみならず金属イオンの濃縮にも用います.例えば海水中の微量金属分析は,多量成分ナトリウムやカリウムがあまりにも多すぎるためそのまま誘導結合プラズマ発光分析または質量分析(ICP-AES,ICP-MS)で測定 することが困難です(原子吸光という選択肢もありますが). そのため,目的の微量金属と配位結合するキレート剤を用いて錯形成させれば有機溶媒に溶けますので,二相分離させて有機層へ微量金属を移動させます.有機層は沸点が低く濃縮が容易という利点もあります.また,錯形成時のpHを調整することで,有機層へ移動させる金属を選別できます.もちろん,イオン交換クロマトグラフィーを用いて金属イオンを分離することもできます.

 

 このように,分離科学と難しく書きましたが,要は「どうやって分離しようかなと考える分野」です.基本は分液漏斗です.何も難しくありません!さて,この二相分離ですが,これはクロマトグラフィーにおいて非常に大切な概念である「理論段数」の基本にもなります.次回以降,少しずつ分離科学や機器分析について一緒に考えていきましょう!

 

分析化学も たまには面白いですよ! (2006. 4.21 ぺんぎん)

 

参考、関連文献

 

※クロマトグラフィーの基本事項について現在でも入手しやすいもの

 

[1] 機器分析のてびき(増補改訂版),泉 美治ら,化学同人,1986
[2] 入門クロマトグラフィー,Gritter,Bobbitt,Schwarting著,原 昭二訳,東京化学同人,1988
[3] 分析化学〈1〉基礎化学コース,井村久則,鈴木孝治,保母敏行,丸善,1996

  

  

分離分析化学事典分離分析化学事典

 

分離、分析についての様々な方法やそれに付随する考え方、あるいは事象や現象などについて具体的な解説を試みる。約500項目にまとめ、50音配列で解説した中項目の事典。
 

 

 

分離分析入門分析化学シリーズ

【用語ミニ解説】

 

 

Hplc Columns
Hplc Columns 

 

 

 液クロ虎の巻―誰にも聞けなかったHPLC Q&A
液クロ虎の巻―誰にも聞けなかったHPLC Q&A

 

プロ集団が書いた、オフィシャルガイド!液クロの現場で日々発生する素朴な疑問の数々。想定されるこれらの問題に、液クロ懇談会の精鋭メンバーが分かり易く答える。

 

 
移動相

 

充填カラムなど固定されて動かない「固定相」に対して,有機溶媒を流す(移動させる)ことから,クロマトグラフィーに使用する溶媒を移動相という.場合により展開溶媒,溶離液などともいう.

 
充填剤

 

カラムと呼ばれる細い管に充填する粒子のこと.充填剤は固定相となる.充填剤が充填されたカラムは,特に充填カラムともいう.

 

蛍光

 

電子が基底状態から特定波長の光を吸収し励起状態へ移行した後,基底状態へ戻る際に吸収したエネルギーを光として放出する場合に観測されるもの.厳密には一重項励起状態から比較的短い時間で放出されるもの.三重項からは寿命の長いリン光が発せられる.

 

質量分析

 

分子の質量を測定する方法及びその装置.検出感度が高いため極微量でも分析できる.質量ごとに分離し,それを検出するという二段階のプロセスで成立する.分離は飛行時間型,四重極・八重極型,タンデム型などがあり,検出は分離された分子イオンを光電子増倍管で検出するなどがある.

 
示差屈折

 

移動相中に溶質が存在すると,移動相のみの場合とは屈折率が異なることを利用したもの.分子の種類によらず,単純に成分量に比例するため,含有率(%)を求めることができる.さらに糖類など紫外可視領域での光吸収や蛍光性のない物質でも検出できる利点がある.しかし,感度が低く移動相をグラジエントできないなど難点もある.