ランタノイド有機合成 |
グリニャール試薬やLDAなどの典型元素有機金属化合物、Wilkinson触媒やKaminsky触媒などの遷移金属を用いた錯体のように近年このような金属反応剤が有機合成において必須のものとなっている。このような有機金属化学、有機錯体化学の研究が、今日の有機合成化学を発展させたといっても過言ではない。しかし、近年までこれらの金属化合物の中にランタノイド金属は含まれていなかった。20年程前からランタノイド元素に関する研究がなされ、現在では有用な化合物も見出されている。
そこで今回はこのランタノイド金属元素を用いた有機合成を考えてみよう。その前にランタノイド元素を紹介する。
▼ ランタノイド元素とは?
ランタノイド(希土類)は周期表の中でランタンLaに次ぐ14元素のことをいう。(図1)
図1ランタノイド元素
しかし、このランタノイドをすべて挙げられる人が何人いるだろうか?私は正直言って5つくらいしかわからない。そのくらい一般的にあまり知られていない元素であり、有機金属化学の分野においても長い間研究はなされていなかった。近年4f電子をもつこのランタノイド類は無機材料化学の分野等で「ハイテク物質」として注目を浴びるようになり、有機合成の分野でも利用できないかということで研究がなされている。
▼ ランタノイド元素の性質
有機合成に有用なランタノイド金属は
1)アルカリ金属よりも弱いが、適度に強い還元力を示し、Sm,Ybなどは2価状態で安定であり1電子還元剤として利用できる。 2)ルイス酸性、塩基性が強く酸素や硫黄にも強く配位する。それによってカルボニル基等を反応中心に引きつけ、位置、立体選択性を誘導する性質として利用できる。 3)イオン半径が大きいので、反応の際に反応点より遠くはなれた部位の配位を可能にし、従来と異なった遷移状態が期待できる。 4)イオン半径が大きいので、配位数も大きくなり(6〜12)、逆に配位不飽和になりやすいので高い反応性が期待される のような性質があります。 それでは、ランタノイド金属を用いた合成反応例を示してみましょう。
▼ 有機合成への利用
○Simmons-Smith型反応 Simmons−Smith反応は通常CH2I2に亜鉛を銅塩または水銀塩で活性化して用いるが、亜鉛の変わりにサマリウムSmを用いると亜鉛よりシクロプロパン化が高収率で進行する。1)(図1)
図1 サマリウムを用いたSimmons-Smith反応
また図2のようなオレフィンに反応させると、ジエチル亜鉛を用いると、収率は74%で、遊離オレフィンにも反応するものが5%ある。しかしサマリウムを用いた場合、アリルアルコールのオレフィン部位のみが選択的に反応する。2)
図2 選択的シクロプロパン化
○ピナコールカップリング型反応 ピナコールカップリング反応はMgやその他の金属を通常使うが、ヨウ化サマリウムを用いると、図3のような機構により立体選択的に反応が進行する。3)また、水銀も使わないので環境的にもクリーンである。
図3 立体選択的ピナコールカップリング反応
○アルドール型反応 一般にルイス酸触媒にとって水(湿気)は毒であるが、水系でアルデヒドとエノールシリルエーテルのアルドール反応に対して3価のランタノイドトリフラートLn(OTf)3が高い触媒活性を示すことが知られている。(図4)
図4 水系触媒アルドール反応
○有機ハロゲン化物の還元 有機ハロゲン化物の還元にはNaBH4やLiAlH4、Bu3SnH等が使われるがNaBH4やLiAlH4より穏やかな還元剤としてSm(II)などの低原子価金属を用いることがある。(図5)反応はラジカル機構で進行し、NaBH4やLiAlH4の反応の容易さが第1級>第2級>第3級に対して、Sm(II)は逆の第3級>第2級>第1級である。
図5 有機ハロゲン化物のヨウ化サマリウムを用いた還元
○リビング重合
有機ランタノイド錯体(図6)によるメタクリル酸メチルの重合では、高シンジオタクチックなリビング重合が可能である。5)
図6ランタノイド重合開始剤
以上ランタノイドを利用する有機合成を簡単に紹介したのだが、もちろんこれ以外にもたくさんあり、主要な今までの金属反応剤と同じように使え、性能が高いものも多い。詳しくは参考文献である日本化学会編の季刊化学総説を読んでみるとよい。希少元素なので、値段もそれなりにすると思うが、合成をしている方は使ってみたらどうですか? 有機って面白いよね!! (2000/12 ブレビコミン)
▼参考、関連文献
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【用語ミニ解説】
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