環境破壊の影響 |
20世紀も残すところあとわずかになってきました。20世紀はめざましく科学が発展した。21世紀を迎えるにあたってその発展の裏で起こっている環境破壊について正しく理解し、反省していかなければならないと思います。
一言で環境問題といっても、大気汚染、ごみ問題、オゾン層破壊、地球温暖化、酸性雨、ダイオキシン問題、環境ホルモン等たくさんあるので、その中でも化学に関係あるオゾン層破壊、地球温暖化、酸性雨、ダイオキシン問題についての概論を紹介します。
▼ オゾン層破壊
▼オゾン層破壊の影響
オゾンは紫外線を吸収するという特徴をもっている。このため、オゾン層が破壊されると、地上に達する紫外線量が増加し人体や植物への悪影響がある。生体の多くは紫外線領域に光の吸収帯を持っており、DNAは260nmに吸収帯を持っているため長時間紫外線にさらされると、DNAが損傷を受ける。DNAは修復機能を持っているが、修復機能が低下し障害(皮膚がん、白内障など)が発生する。また、植物への悪影響として、葉の成長阻害、葉面の白化・黄化、花粉の発芽阻害、農作物の生育・終了の低下などがある。また、地球環境の影響として、地球温暖化、対流圏における化学反応の変化など多大な影響を与えるものである。
▼オゾン層の破壊過程
太陽からの強い紫外線(UV-C)は酸素分子をを酸素原子に解離したり式(1)、酸素原子と酸素分子を結合させる式(2)エネルギーとほぼ等しいため、酸素分子からオゾンが生成する。
・・・・・・式(1) ・・・・・・式(2) フロンは化学的に安定な物質であるが強い紫外線を受けると、塩素原子を遊離する。塩素原子はオゾンと反応しやすいため、これがオゾンを分解する。塩素原子は一酸化塩素となり、これが再びオゾンの分解に用いられる。
▼フロンの性質・種類
フロンは約60年前に合成され、当時はそのなどから”夢の物質”として脚光を浴びていた。
フロンは、FC(fuluorocarbon)、CFC(chlorofluorocarbon)、HCFC(hydrochlorofluorocarbon)、HFC(hydrofluorocarbon)、Halonに分類される。フロンの名称と分類を表1にまとめる。
表1 フロンの種類と特徴
▼フロンに変わるもの
フロンは前述のとおりに、優れた性質を持っているためフロンに変わりうる代替物質が見つからないが、その性質をできるだけ損なわない程度での代替物質の研究が行われている。代替フロンとしては、分子中に水素を含んでいるHCFCやHFCを用いることで大気中のOHラジカルによって水素を引き抜き(水が取れる)フロンをラジカル化させ、大気中寿命を低下させたり、分子内に塩素を含まないフロンを用いる方法がとられている。これらの方法はオゾン層への影響を軽減するだけであって抜本的なものではないため、フロンをまったく用いない非フロン対策技術が研究されている。
▼ 地球温暖化
▼温暖化の影響
地球温暖化が起こると、河川流域での季節変化パターンの変化、日本南西部での農作物の育成が不利、害虫雑草の活動の活発化、分布範囲の限られた植物の消滅、野生生物の食物連鎖が不調和になることによる影響、冷水性の魚類の減少、水位の上昇等たくさんの影響が考えられる。
▼温室効果気体の種類
温室効果気体の種類と温暖化係数を表2に示す。
表2 温室効果気体の種類と温暖化係数
▼温暖化の仕組み
地球は太陽から光エネルギーを受け取っている。このエネルギー量と等しい量のエネルギーを赤外線として地球外に放出しているため、地球の温度は一定に保たれている。
太陽から受け取るエネルギーを100とすると、そのうち30は雲、大気、地表などで反射して宇宙に帰る。約16が温室効果気体に吸収される。雲が3を吸収し、陸地が51を吸収している(式3)。よって、地球が実際に受け取っている量は70となる。
太陽エネルギー = 雲、大気、地表での反射 + 温室効果気体の吸収 + 雲の吸収 + 陸地の吸収・・・・式(3) 100 30 16 3 51
これに対して地球は、21を地表から放出し、そのうちの15が温室効果気体に吸収される(実質6を放出)。温室効果気体は38を放出し、雲などが26を放出している(式4)。よって地球が受け取るエネルギーと放出エネルギーは等しくなっている。
地表の放出 − 温室効果気体の吸収 + 温室効果気体の放出 + 雲の放出 = 地球の放出・・・・式(4) 21 15 38 26 70
しかし、温室効果気体は可視光域のエネルギー(太陽光)はほとんど吸収しないが、赤外域のエネルギーは吸収しやすいという特性を持っているため、温室効果気体が増加すると、地表から放出されるエネルギーが吸収されてしまい、宇宙への放出するエネルギーの方が少なくなってしまうために温暖化する。
▼ 酸性雨
▼酸性雨の影響
酸性雨の影響としては、森林の消滅(枯れる)、湖畔の酸性化による魚類の死滅、文化財への影響(石灰石の溶出)、人体被害等が挙げられる。
▼酸性雨とは
酸性雨とは、雨水に酸性物質が混入し酸性化した雨のことである。日本では大気中の二酸化炭素濃度で飽和したpH5.6以下の雨のことをさしている。海外ではpH5.0以下の雨をさす場合もある。
▼酸性雨の発生原理
工場や自動車の排気ガス中に含まれる硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)が雨水と反応し(溶け)、硫酸や硝酸などの強い酸性の雨になる。このことから、酸性雨は大気汚染のひとつの形態であるとも言える。
▼SOx、NOx対策
SOx、NOxは工場からの発生と自動車などからの発生に分けられる。工場からのNOxの低減法しては燃焼時に燃焼用空気と燃料中の窒素から発生するNOxの量を低減する低NOx燃焼と排ガス中のNOx濃度が高い場合にアンモニアと接触させを行う排ガス脱硝法がある。SOx量の低減方としては水素化脱硫を行う方法と、石灰石、石膏を用いて脱硫する排ガス脱硫法がある。
また自動車の排ガス対策としては三元触媒を用いることによってNOxやCO等の有害物質をN2、CO2の形で排出する方法がとられている。
▼ ダイオキシン問題
▼ダイオキシンの人体への影響
ダイオキシンは非常に毒性の高い物質(人工化学物質の中で最も毒性が高い)として有名である。発ガン性、肝毒性、免疫毒性、生殖毒性などが認められている。日本は先進国の中でもダイオキシンの発生量が最も多い国であるため、環境濃度が高く、対応が急がれている。
▼ダイオキシンの人体への摂取
ダイオキシン類の摂取経路は、大気からの吸収、水からの摂取、魚類からの摂取、農作物からの摂取などがある。ダイオキシン類は難分解性であるため、長い間の食物連鎖による生態濃縮される。脂質の多い魚類はダイオキシンを水から蓄積しているため、人体への摂取量は魚類からの摂取が最も多くなっている。
▼ダイオキシンの発生量
日本におけるダイオキシンの発生量は、1997年6330〜6370g、1998年2900〜940gである。1998年に法律が改正されたことによって大幅に発生量が減っている。発生源としては一般廃棄物焼却炉、産業廃棄物焼却炉、産業系発生源、未規制小型焼却炉などがあり、一般産業焼却炉が大半を占めている。法律改正によって1997年には4320g-TEQであったが1998年には1340g-TEQまで減少している。
▼ダイオキシンの種類
ダイオキシンの例を表1に示す。
表1 ダイオキシンの種類
▼ダイオキシンの生成過程
ダイオキシンの生成する過程(2,3,7,8-TCDD)を図1に示す。
表1 2,3,7,8,-TCDDの生成過程
一般的なダイオキシンの生成過程はオルト置換ベンゼンが2分子縮合しその後、塩素化するものである。
▼ごみ燃焼によるダイオキシン発生と対策
ごみ燃焼によってダイオキシンの発生は、前駆体(塩化フェノールなどの芳香族塩化物)の存在や触媒(塩化銅等)の存在、燃焼温度などが深くかかわっている。前駆体となる塩化フェノールなどの芳香族塩化物は一般のごみに含まれているため、可燃ごみの減少がダイオキシン発生を抑えるために一番重要なことである。ごみ燃焼の際にダイオキシンを発生させないためには、800℃以上で燃焼することによってダイオキシンを分解する方法がとられている。
▼ダイオキシン対策法
ダイオキシン対策法は、「ダイオキシン類が人の生命及び健康に重大な影響を与える恐れのある物質」ということに着目して作られている。この法律では環境基準、排ガス基準、排水基準、汚染状況の調査や廃棄物焼却に関するばいじん・焼却灰の処理などが定められている。
以上、現代叫ばれている環境破壊の概論について述べてみました。環境問題は奥が深く、1つのトピックスで語れる話ではありません。今後、化学の立場から見た裏話や1つ1つに関連したお話をしていきたいと思っています。
(2000/12/24 ボンビコ−ル)
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