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何はともあれ育毛剤

  

 「ハゲ」は決して病気ではありません。しかし快適な生活を求めると何かと都合の良くない面が多い、と考え過剰に気にしている人が多いのも事実です。病気よりもハゲることの方が怖い人もいるでしょう。あまり良くない言葉ですが、「デブ、ハゲ、チビは嫌われる男の三大条件」という言葉があったりするぐらいです。
 その悩みの大きさは、育毛剤に始まるあらゆる発毛・育毛・カツラ製品が数え切れないほど発売されていることからも、想像に難くありません。
 今回は誰もが気になる「髪と育毛剤」について述べてみたいと思います。

 

育毛市場の現状


 1980後半、中国の漢方医が発明した「101」という育毛剤がブームとなりました。有効率が97.5%という触れ込みでマスコミが報道したため、そのブームはすさまじいものとなりました。現地に飛んで直接入手するという「ハゲ治療ツアー」までできる始末でした。しかし、使用者にカブレがおこるという事件があり、ブームは一過性のもので終わりました。この騒動自体、いかに毛髪の再生を願う男性が多いかの証明であるといえるでしょう。
 現在では、500万人の人が育毛剤や育毛トニックを使い、年間総売上は現在では500億円といわれています。また、育毛とは少々趣が異なりますが、アートネイチャーやアデランスといった会社もがんがんCMを出しているのはご存じの通りです。それだけ需要が大きい市場なのです。

 

毛髪の構造


 ハゲについて考える前に、我々の毛髪がいったいどのような構造になっているか学んでおく必要があるでしょう。
 私たちが普段見ている毛髪は右図でいうところの毛幹という部分です。毛幹自体は死んで角質化した細胞で構成されており、全く増殖しません。ではどうして髪は伸びるのでしょうか?。
 CMなどで「毛根」という用語を聞いたことがあると思いますが、皮膚に埋もれて見えない部分は正しくは毛包と呼ばれます。実際育っている細胞は毛包に存在する毛母細胞です。毛母細胞は毛乳頭から発毛シグナルと毛細血管経由の栄養を受け取り、分裂します。増殖して皮膚の表面にでた毛母細胞は、水分を失い角質化します。これが毛幹です。
 試しに毛包を皮膚から取り出し別な場所に移すと、移植された毛包から再び毛が伸び始めます。つまり、毛が伸びるのに必要な情報はすべて毛包に含まれている、といえるのです。このことが、植毛ができる一つの原理でもあります。
 毛穴に近い部分には皮脂腺が開口しており、長い間頭を洗わないと埃などが付着して雑菌の繁殖場になってしまうことがあります。その結果炎症が起こったりすると血行が妨げられ髪によくありません。育毛剤が頭皮の清潔を売り物にしているのも、うなずけないことではありません。(右図は参考文献より引用)

 

ヘアサイクル

 
 
毛髪は、ヘアサイクル(成長期→退行期→休止期→…)と呼ばれるある周期を持って活動しています。
 成長期は頭髪では3〜7年と言われ、その期間は毛母細胞が活発に分裂します。成長期が終わりに近づくと毛髪が休止期に入る準備を始めます。これが退行期(2〜3週間)で、毛母細胞の分裂が衰え、毛乳頭が小さくなります。休止期(3〜6ヶ月間)にはいると、毛幹はしばらく毛包にとどまるものの、引っ張ったりこすれたりすると抜け落ちます。休止期が終わると再び成長期に戻ります。これがヘアサイクルの一連の流れです。
 動物の場合は、毛のはえかわりの例が示すように、ヘアサイクルの同調が見られるのですが、人間の場合そのようなことはなくそれぞれがてんでんバラバラに活動しています。そのため、絶えず抜け毛と生えてくる毛が同時に存在します。

脱毛症は毛包が小さくなり、成長期が短くなって毛の太さや長さが減少していくことを言います。毛乳頭が何らかの原因で発毛シグナルを送らなくなって、ヘアサイクルに異常が起こるとハゲるわけです。

 

ハゲの原因いろいろ


遺伝説:ハゲは遺伝する、という考え方は現在でも多数の学者に支持されています。ただ、その遺伝形態は当初考えられていたものより複雑であることが分かってきました。親がハゲていなくても、隔世・隔々世遺伝によってでることもあります。女性の持っている遺伝因子も関係があるらしい、ということになっています。

血行障害説:毛包周辺の血行が悪くなると、毛に栄養が送られずハゲる、という説です。これは、現在ではかなり強く支持されていて、市販されている育毛剤の大部分が血行改善を触れ込みとしています。

男性ホルモン説:現在もっとも有力とされている説です。代表的な男性ホルモンであるテストステロンを注射したところ、ハゲが進行したという報告例があります。ここで重要なのは、その進行度合いはテストステロン量には関係なく、遺伝的に決まるテストステロンの感受性の強弱に依存する、ということです。男性ホルモンが多いから、といってハゲるわけではないのです。頭頂部と側頭部でハゲの進行速度に差があるのは、テストステロン感受性に差があるからだと考えられています。

脱色・染毛剤:若者たちの間で大流行しているファッションの一つとして「茶髪」があります。最近では茶髪どころか金髪やもっとすごい色も珍しくありません。髪染めには、大きく分けて脱色と染毛の二つがありますが、どちらも化学薬品を用いて染める、という点では同じです。現在のところ薬品の安全性は議論の最中です。しかし、頭皮には脂質が多く含まれ、薬物が浸透・蓄積しやすいのです。それゆえ、「毒性のはっきりしない化学薬品を使って頭髪を染めることは、髪の毛にとってリスキーである」、ということは確かです。

ストレス:頭皮の血行を悪くし、円形脱毛症の原因となると考えられています。

自己免疫説:円形脱毛症時に、リンパ球が毛穴とその周辺に集まる現象が見られるので、免疫系の異常によるアレルギー反応が原因で脱毛が起こるのではないか、という説も提唱されています。

・その他:喫煙・飲酒・紫外線・不規則な生活など、お決まりの原因がいろいろ考えられています。

 

育毛剤の起源

 
 
そもそもハゲの原因自体、実際ほとんど分かっていないのが現状です。上記の原因はまだまだ科学的根拠に乏しいです。育毛剤というものは、「こうすれば効く」という信念の基に作られているものではなく、「適当な物質を作ってハゲに塗ってみたら効いてしまった、じゃあ育毛剤として売ろう」というプロセスで歴史的には商品化されてきたものです。なぜ育毛剤がハゲに効くかという理由はよく分かっていませんでした。
 現在の市販育毛剤は、さすがに当てずっぽうということはなく、それなりの医学的根拠があり、効果判定もなされているので全く効かない、というわけではありません。しかしながら元々は別の目的でつくられた薬でした。
 

代表的な育毛剤とその成分


 ハゲは病気でありませんが、一部の人たちには非常に気になるものです。これを改善する薬、すなわち日常生活を改善するのに役立つような薬をライフスタイル・ドラッグ(生活改善薬)と呼んだりもします。かのバイアグラなんかもそれに含まれます。

リアップ(主要成分Minoxidil):1979年にアップジョン社が血圧を下げる降圧薬として発売しました。しかし臨床試験中に毛包回復作用を持つことが明らかになりました。降圧作用の副作用として発毛作用がある、ということが分かったのです。その後の研究で血行促進作用および毛乳頭の遺伝子に作用して発毛効果を生むことが分かりました。つまり、薬の発見が先にきて作用メカニズムの解明が後からついてくる、というケースでした。

Minoxidil

プロペシア(主要成分Finasteride):元々は前立腺肥大症の薬としてメルク社が開発したものです。前立腺肥大症は、男性ホルモンのテストステロンが少し変化した、ジヒドロテストステロンが前立腺の受容体に結合して起こるとされています。テストステロンをジヒドロテストステロンに変換する「5αリダクターゼ」という酵素を阻害して症状を抑えるのが、このフィナステライドという薬です。この薬は男性ホルモンに深く関わっているので、発毛効果があるということもある程度予測のつくものでした。フィナステライドは、男性ホルモンの作用を抑えてしまうので精力減退という副作用を持ちます。精力をとるか発毛をとるかは個々人の価値観に任せよう、ということなのでしょう。

Finasteride

科学的根拠が比較的明瞭である代表的な薬物はこの2つです。育毛剤は他にも多数あります(効果のほどは分かりませんが)ので、関連サイトなどを参照してみてください。

 育毛分野はまだ未解明のことが多いです。人間と違いマウスなどの動物はハゲることがほとんどないので、動物実験などの科学的なアプローチがとりにくいということも一因です。しかし現在では遺伝子解析などに代表される強力な手法により急ピッチで研究が進められています。ハゲのメカニズムが解明される日もそう遠いことではないでしょう。


(2002.2.11 by cosine)

 

参考、関連文献

 

・ハゲ、インポテンス、アルツハイマーの薬 宮田親平 文春新書

 

若ハゲは止められるか―発毛のメカニズムと育毛剤の効能

関連リンク

 

育毛剤辞典
「育毛」大辞典
図解で知ろう!染毛剤
ゲノム創薬
アートネイチャー

 

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